読み聞かせの癒やし効果〜日経サイエンス2022年2月号より
入院中の子供の痛みとストレスを和らげる
子供に物語を読み聞かせると落ち着いておとなしくなる。この魔法のような効果は昔から親や教師,保育士の間で折り紙付きだ。最近,小児集中治療室で治療にあたっている研究者グループが,上手な読み聞かせの生理学的・感情的な効果を調べて数値化した。
「物語に人を別世界へ誘う力があることは確かだ」と,米国科学アカデミー紀要に報告された研究論文の筆頭著者でブラジルのサンパウロにあるABC連邦大学で情動と学習を研究しているブロッキントン(Guilherme Brockington)はいう。物語を読み聞かせると子供が自分の感情をうまく調節できるようになることは以前の研究で示唆されていた。だが,そのほとんどは実験室環境で行われたもので,被験被験者が機能的磁気共鳴画像装置(fMRI)のなかに横たわった状態で質問に答えるといった実験による。もっと一般的な病院の環境のなかで「読み聞かせの生理学的・心理学的効果を調べた研究はほとんどない」とブロッキントンはいう。
そこで,ブラジルの複数の病院で働く研究者からなる同チームは,4~11歳の小児患者81人を2つのグループに分け, 10年間の病院勤務経験を持つ読み手を割り当てた。片方のグループでは,読み手がそれぞれの子供となぞなぞゲームをした。他方のグループでは,子供が選んだ本を読み手が音読し,子供はそれを聞いた。これらの前後で,それぞれの子供の唾液を採取し,疼痛レベルを聞き取り調査し,言葉を自由に連想するクイズをした。
ストレス関連ホルモンや疼痛レベルに変化
どちらのグループの子供にも,ある程度のよい効果が生じた。ストレス関連ホルモンのコルチゾールが下がり,共感に関連し快感ホルモンともいわれるオキシトシンが増えた。しかし,読み聞かせグループの子供たちのほうがプラスの効果が有意に高くなった。なぞなぞグループと比べてコルチゾールが1/4,オキシトシンは2倍近くになった。さらに,読み聞かせグループでは自己報告による疼痛レベルの低下幅がなぞなぞグループの2倍近くに達し,入院中の自身の状況をより前向きな言葉で語った。(続く)
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