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海鳥のホットスポット〜日経サイエンス2022年2月号より

北大西洋の食物豊富な海域に年間数百万羽の渡り鳥が集まる

 

スコットランドとバミューダ諸島の中ほどに,はるか遠くから毎年何百万羽もの海鳥を引き寄せる海域がある。過去数十年分の追跡データを用いた最近の研究によって,南北両半球の20数種の渡り鳥少なくとも500万羽が,北大西洋にある約60万km2に及ぶこのホットスポットに食物を依存していることがわかった。この研究結果はConservation Letters誌に報告されている。

 

生態学者は以前から,渡りをする海鳥にとって北大西洋が重要な餌場になっていると考えてきたが,鳥の移動パターンに関するデータが不十分で,それらの公海を保護域とする根拠を示せなかった。渡りをする海鳥は「最も危機に瀕している分類群のひとつだ」と,この研究論文の主執筆者となったバードライフ・インターナショナルの保全生物学者デイビーズ(Tammy Davies)はいう。調査対象とした21種のうち,ニシツノメドリやキョクアジサシ,バミューダミズナギドリなど17種は個体数が減っている。汚染や魚の乱獲,商業漁業で魚と一緒に網にかかってしまうなどの害を受けている。海鳥の陸上の繁殖地は保護される傾向にあるものの,餌場は公海上にあることが多く,どの国の管轄権も及ばない。

 

求心力の大きな場所

研究チームは個々の鳥の移動を人工衛星で追跡したデータを解析し,その数の多さと多様性,この海域が年間を通じて海鳥に餌場として使われていることを見いだして驚いた。「特に驚きだったのは,この領域に集まる種の多さと一部の海鳥の移動距離だ」とデイビーズはいう。「南大西洋からはるばる1万3000kmも移動してきた鳥もいる。鳥たちにこんな長旅をさせるだけの魅力的な何かがそこにあるのは明らかだ」。

 

その「魅力的な何か」はぶつかり合う海流に運ばれてきたごちそうである可能性が高いと,Progress in Oceanography誌に報告された別の研究が示唆している。

 

この研究では,衛星データとモデル計算を,2017年に北大西洋を航行した船舶から得た古典的な目撃観察情報と組み合わせて解析した。「実際に現地に行って見れば,まだたくさんの発見があると思う」と,この論文の筆頭著者となった英グラスゴー大学の生態学者ウェイクフィールド(Ewan Wakefield)はいう。

海鳥はこのホットスポット海域の内部で,食物に富む海流から離れなかったとウェイクフィールドはいう。この研究チームはまた,鳥が種ごとに別の海流に集まることにも気づいた。おそらくエサの好みや採餌行動の違い(空中から飛び込んで捕食するなど)によって分かれているのだろう。(続く)

 

続きは現在発売中の2022年2月号誌面でどうぞ。

 

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