細菌の助けで核のゴミを処理〜日経サイエンス2022年2月号より
放射性廃棄物処理に役立ちそう
原子炉内の核分裂によって生じる放射性金属は非常に危険なため,多大な費用と労力をかけて地中深くに数千年にわたって隔離貯蔵しなければならない。だが,Journal of the American Chemical Society誌に報告された最近の研究によると,ごく一般的な微生物が作り出すタンパク質がこの負担を軽減するのに役立つ可能性がある。
放射性廃棄物のなかで最も問題となる成分はアメリシウムとキュリウムという金属だ。どちらにも,何千年もかけてゆっくりと崩壊していく長寿命の核種がある。多大な熱を発するため,核廃棄物を収めた容器は遠く離して埋設しなければならない。ペンシルベニア州立大学の生化学者コトゥルボ(Joseph Cotruvo, Jr.)によると,人間や環境に放射線の害が及ぶのを避けるためには適切な隔離が不可欠だ。「これらの元素がごく微量漏れただけでも,実に大きな問題になる」。
ランモジュリンというタンパク質
コトゥルボらは2018年,土壌中や植物の表面によく見られるメチロルブルム・エクストルクエンス(Methylorubrum extorquens)という無害な細菌が「ランモジュリン」というタンパク質を作っていることを初めて報告した。エクストルクエンス菌はこのタンパク質を使って,自然環境中に存在する金属,典型的にはランタノイドというグループの金属を捕捉して,自らの代謝に役立てている。
コトゥルボらのチームはその後の実験で,ランモジュリンがアメリシウムおよびキュリウムと容易に強く結合すること,そしておそらく通常の結合相手の多くよりもこの2種の元素を好むことを発見した。加えて,両者との結合は次に強い結合相手となる自然の金属元素との結合よりも数千倍安定していた。
このタンパク質を放射線検出器とフィルターに組み込み,これら長寿命の放射性金属を核廃棄物から抽出することを研究チームは提案している。抽出した成分を別に隔離すれば,長期監視と遠く離して埋設する必要がある核廃棄物の容積を減らせるだろう。もうひとつの可能性として,捕捉したアメリシウムとキュリウムを核燃料に混ぜて再利用する方法をコトゥルボは提案している。(続く)
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