中高生が学ぶ サイエンス講義

明治大、味覚伝える技術紹介 〜筑駒中高生、未来を生きる力学ぶ

明治大学は筑波大学附属駒場中・高等学校(東京・世田谷)で「2050年の未来をどう生きる?」と題した特別講義を10月に開いた。総合数理学部先端メディアサイエンス学科の宮下芳明教授が、技術革新が社会を変えてきた歴史をひも解きながら、生徒たちに変化への対応力と未来を開拓する力の大切さを説いた。

10年後にスマホはあるか?
先端メディアサイエンス学科は「コンピューターをメディアととらえ、未来の理想の姿を探求している」(宮下教授)。スマートフォン、ロボット、AR(拡張現実)、3Dプリンターなども先端メディアであり、人々の生活や社会をより幸せにするための新しい技術や用途を研究開発し、新たな未来を創り出すことを目指しているという。

宮下教授は新たなメディアが社会を変えた歴史として、19世紀のカメラの発明によって肖像画家という職業がほぼなくなった一方、絵画の新たな表現手法が生まれたことや、2007年の音声合成技術「ボーカロイド」の登場をきっかけに個性豊かな歌い手が次々と誕生し、人間の歌唱力が高まったことなどを紹介した。また人々の憧れだった職業が新技術の登場によって衰退した事例も説明した。

そのうえで宮下教授は「10年後にスマホがあるか?」と生徒たちに問いかけた。新しい技術が次々と生まれ、今あるものがこの先もずっとあるとは限らない。脳とコンピューターをつなぐ「ブレイン・マシン・インターフェース」という技術の研究が米企業などで進んでいることを紹介し、実用化すればスマホに代わるデバイスが実現する可能性を示した。

社会変化への対応力養う
社会を変えるビジョンや技術は突然出てくるわけではない。長年の研究開発の積み重ねがあって実用化し、世の中に広がる。宮下教授は「ARや3Dプリンターも最初に技術が登場したのは半世紀ほど前のこと」と指摘。21世紀になってビジョンが提唱され、近い将来に普及するであろう技術の一つとして自らが研究する「味覚メディア」を紹介した。

宮下教授は昨年「味覚ディスプレー」を開発した。食べ物の味を味センサーで記録し、5つの基本の味(甘味、塩味、酸味、苦味、うま味)を組み合わせて同じ味を再現する。映像や音声と同じように味も遠くの人に伝えられるようになるほか、特定の味を強めたり、弱めたりして味覚に障がいがある人を支援する技術にもつながるという。

「私たち研究者は人類をもっと幸せにしたいとの思いで様々な研究開発をしている」と宮下教授。ただ新しい技術がいつ普及するかは研究者にもなかなか分からないという。講義テーマにある「2050年」は今の中学生や高校生が働き盛りの頃。それまでに社会がどう変化するかを見通すのは簡単ではない。

だからこそ「今の社会環境に自己を最適化する学びだけでは、時代が変化した時に思考停止してしまう」と宮下教授は警鐘を鳴らす。不確実な未来を生きるためには「変化に対応する力と問題を解決する力」が必要であり、様々な試行錯誤を重ねてその力を養う場が大学だと強調した。

生徒からは、脳とコンピューターをつなぐ技術の可能性や課題についての質問が相次いだ。また「人間が技術に適応すべきか、技術が人間に適応すべきかを考えた」(高2)「変化を恐れていては、発展はない。失敗を恐れずにやってみることが大切だとわかった」(高1)などの感想が聞かれた。■


(日経サイエンス2022年1月号に掲載)
※所属・肩書きは掲載当時

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協力:日経サイエンス 日本経済新聞社