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小笠原諸島発 軽石1300kmの旅〜日経サイエンス2022年1月号より

遠方の海底火山で生まれた軽石が南西諸島に漂着中

 

沖縄県の島々や鹿児島県の奄美諸島の海岸に,2021年10月から軽石が続々と漂着している。水面を埋め尽くした軽石のせいで,沖縄本島の入り江にはまるで砂浜が延々と海の上まで続いているかのような景色が現れた。

 

大量の軽石をもたらしたのは,沖縄本島から東に1300kmも離れた小笠原諸島の海底火山「福徳岡ノ場」で2021年8月に発生した噴火だ。

 

軽石は流れ出した溶岩が冷え固まってできるのではなく,直接火口から飛び出してくる。噴火の前,高圧・高温のマグマには水が溶け込んでいる。マグマが火道を上り始めると圧力と温度が下がり,溶けきれない水が析出してマグマ内に水蒸気の気泡が生じる。これは,炭酸飲料のペットボトルでフタを開けた途端にガスの気泡が現れるのと似た原理だ。さらにマグマが上昇してくると,マグマの成分が固体となり,気泡だらけの軽石ができて火口から噴出する。軽石は大きな浮力を持つため海面に浮かび上がり,プカプカと漂流を始める。
 


沖縄本島北部の国頭村で10月に撮影された漂着軽石の様子。左下のしわのよった砂が本当の陸地で,
写真中央の白く平らな砂浜に見える部分は,実はすべて海面に浮かぶ軽石だ。(及川輝樹

 

8月13日,産業技術総合研究所地質調査総合センターの及川輝樹主任研究員らは,気象庁が発表する航空機向けの警戒情報で福徳岡ノ場の噴火を知った。気象衛星ひまわりの撮影画像を急いで確認したところ,大きな噴煙が上がっていた。「日本列島では数十年に一度しか起こらない規模の噴火」(及川主任研究員)だった。

 

ただ,詳しく調べたいと思っても概して海底火山の調査は難しい。火口の姿が見えず,海底に沈んだ噴出物の採取もままならないためだ。そこで軽石が頼りになる。軽石の組成からマグマの成分がわかり,石が含む気泡の形からはマグマがどの程度の速さで上昇したかといった噴火の詳細な様子が見えてくる。軽石は噴火の前後に何が起きたかを記録しており,航空機のブラックボックスに相当する重要証拠品だ。

 

10月に入って南西諸島一帯で軽石の漂着が報告され始めると,及川主任研究員らは早速現地へ飛んだ。「軽石のある湾とない湾があり,それが日によっても変わっていく」。地形の差や風向きの変化で,軽石は湾を出たり入ったりしている。海面を漂流した軽石は多量の塩を含んでいるため,持ち帰った軽石は海水由来の成分を取り除き,これから詳しい分析を始めるという。(続く)

 

続きは現在発売中の2022年1月号誌面でどうぞ。

 

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