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昔のイヌの食生活〜日経サイエンス2022年1月号より

糞石の古DNAから進化を探る

 

狩猟採集生活から農耕へのシフトは人間の進化を変えた。そして人類最良の友であるイヌの進化も変えた。糞石(化石化した糞)は食生活がそうした変化にどう影響したかを現象的に語る素晴らしい情報源だと,英オックスフォード大学の考古学者ラーソン(Greger Larson)はいう。「糞石は腸内のスナップショットだ」。

 

青銅器時代のイヌの糞石13個を解析した最近の研究によって,穀物中心の食事への変化がイヌの腸内微生物に与えた影響が明らかになった。この変化が,イヌの家畜化に一役買った可能性がある。

 

消化酵素の不足を腸内細菌の助けでカバー?

研究チームはイタリア北東部にある古代の農耕集落の遺跡から見つかった3600年前~3450年前の糞石からDNAを取り出し,その塩基配列を解析した。糞石に含まれていたイヌのDNAでは,腸内でデンプンを分解する酵素アミラーゼをコードする遺伝子のコピー数が,現在の大半のイヌと比べて少なかった。オオカミの多くはこの遺伝子をまったく持っておらず,この違いは飼い犬の食べ物がかつての肉中心の食事から穀物に富むものに変わったためだと考えられている。

 

だが,食物の消化は動物自身が作り出す消化酵素だけによるのではなく,腸内細菌も寄与している。糞石に含まれていた細菌の残存DNAを解析した結果,大量のアミラーゼを作り出す細菌の証拠が見つかった。イヌ自身のゲノムは飼い主の農耕民が食べる穀物中心の食事を消化できるまで進化していなかったので「微生物に助けてもらっていたのだ」と, iScience誌に掲載された研究論文の上級著者となった伊ボローニャ大学の微生物学者カンデラ(Marco Candela)はいう。(続く)

 

続きは現在発売中の2022年1月号誌面でどうぞ。

 

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