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カイロウドウケツの秘密〜日経サイエンス2021年12号より

このカイメンは工学的にも興味深い

 

カイロウドウケツ(偕老同穴,英名Venus’s flower basket=ビーナスの花かご)というカイメンは複雑に編み込まれたガラス質の外骨格を持つが,より有名なのはその内部に別の生物がよく見つかることだ。雄雌一対のエビがこのラバライトのような形をした海綿動物の体内に捕捉され,そこで共生的に生き続けている。かつて日本でこのカイメンが結婚祝いに贈られていたのはこのロマンチックな生態による。そして,カイメンの骨格を水がどのように通過して内部のエビの生育を助けているのかについて,ある工学者チームが興味を抱いた理由もこの生態にある。

 

NEON

 
研究チームはカイロウドウケツの人目を引く外骨格にある隆起と穴のパターンが,このカイメンの体内と周囲で水の流れを変えていると考えた。だが,それぞれの構造的特性がもたらす効果を水中実験で特定するのは現実的に不可能だろう。そこでチームはイタリアが持つ最高性能のスーパーコンピューターを使い,一連のシミュレーションを10年がかりで実行した。「最高のシミュレーションであり,実験ではなし得ないことだと思う」とNature誌に発表された論文の共著者でローマにあるイタリア技術研究所で研究理事を務めているスッチ(Sauro Succi)はいう。
 

 

格子構造が水の力を緩和

研究チームは実際のカイメンの寸法に基づいてコンピューター上に3次元モデルを作った。次に,骨格に隆起と穴がある場合とない場合について,水流に乗った数十億個の粒子の動きをシミュレートした。この結果,穴の開いた格子構造が水流からの力を減らし,隆起が水の力を和らげるとともにカイメンの体内に小さな渦を生じることを見いだした。これらの渦はカイメンの卵子と精子を混ざりやすくしているほか,カイメン(と内部のエビ)がより効率的に餌を得るのに寄与している。(続く)

 

続きは現在発売中の2021年12月号誌面でどうぞ。

 

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