SCOPE & ADVANCE

コンクリートに充電〜日経サイエンス2021年12号より

ビルは蓄電池になりうる

 

コンクリートは水に次いで使用量の多い材料だ。構築環境のなかで私たちを取り囲んでいるこの素材に電気を蓄えるアイデアがかねて探究されてきた。ビルを実質的に巨大な蓄電池にしようという考えだ。風力や太陽光などの再生可能エネルギーを利用する地域が増えるなか,この着想が支持を得つつある。風が吹かないときや日が暮れた後には蓄電池に頼らねばならないが,現在の蓄電池は環境に優しいとは到底いえない有害物質から作られることが多い。

 

コンクリート電池はまだ実験的な段階で,通常の電池に比べると蓄電量はほんのわずかだ。だがあるチームが蓄電量を従来の試みの10倍超に高められる素材を試作し,Buildings誌に報告している。

 

内部に人を住まわせるコンクリート電池などありえないと思えるだろう。だが「電池はジャガイモからだって作れる」とアイルランドにあるダブリン工科大学の構造工学者バーン(Aimee Byrne,今回の研究には加わっていない)は指摘する。持続可能性が重要となる将来において,住まいを提供すると同時に電気を供給して無駄を省く建物というアイデアは好ましいという。

 

Zhang, E.Q.; Tang, L. Rechargeable Concrete Battery. Buildings 2021, 11, 103. https://doi.org/10.3390/buildings11030103

 

ニッケル鉄電池と原理は同じ

「これは既存の建築資材に機能を付加するもので,かなり有望だと思う」と研究論文を共著したチャン(Emma Zhang)はいう。チャンはスウェーデンのチャルマース工科大学でこの新電池の設計に取り組んだ後,現在は技術企業デルタ・オブ・スウェーデンの上級開発科学者を務めている。

 

彼女らは単純だが長寿命のニッケル鉄電池(エジソン電池)の設計をまねた。20世紀初頭にエジソン(Thomas Edison)が商業化したこの電池はニッケルの正極と鉄でできた負極の間で電解液がイオンを運び,電圧を生み出す。今回はコンクリートの主成分であるセメントに混ぜ込んだ導電性の炭素繊維が電解質の代わりになる。炭素繊維のメッシュをニッケルや鉄でコーティングし,電極として何層も埋め込んだ。

 

この構成で放電とその後の再充電が可能であることを確かめた。「ある程度の再充電が実際にできたことは,最終目標に向けた非常に重要な一歩だと思う」とバーンはいう。チャンは試作品が着想のもととなった電池と同様に長寿命で(エジソン電池は数十年使える),過充電に耐えると付け加える。「どんなに無茶な扱いをしても性能が落ちることはない」。(続く)

 

続きは現在発売中の2021年12月号誌面でどうぞ。

 

サイト内の関連記事を読む