掃除屋はスイッチグラス〜日経サイエンス2021年11月号より
軍事演習場の有毒物質を吸収・分解
米国には推定1000万ヘクタールに上る軍事演習場があり,その土壌には弾薬の化学物質が浸み込んでいる。そうした化学物質の一種であるRDXという爆薬(成分はトリメチレントリニトロアミン)は地下水に紛れ込み,てんかんやがんを引き起こす恐れがある。最近のNature Biotechnology誌に報告された研究は,北米の平原に広く見られるスイッチグラスを遺伝子組み換えした草によってRDXを吸収・分解できることを示している。
分解酵素を作る細菌の遺伝子を導入
英ヨーク大学の生物学者ブルース(Neil Bruce)とライロット(Liz Rylott)らは,RDXを無害な化合物に変える酵素を作り出す2つの遺伝子を細菌から単離し,スイッチグラスの一種に組み込んだ。この組み換えスイッチグラスを実験室で試験した後,RDXで汚染されたニューヨーク州のフォートドラム軍事基地に植えた。
組み換えスイッチグラスを植えた区画と,野生のスイッチグラスの区画,何も植えない区画の3種類を設け,それぞれプラスチックで内張りを施したうえで,土壌とそこから汲み上げた水を3年間にわたって調べた。この間,組み換えスイッチグラスの種子を丹念に取り除き,もともと生えていたスイッチグラスとの他家受粉を避けた。
この結果,組み換え植物がRDXを吸収して周囲の水に含まれるRDXの濃度が大きく下がること,さらに組み換えスイッチグラスがRDXを分解していることを突き止めた。野生のスイッチグラスの組織にはRDXが見られたのに対し,組み換えスイッチグラスの組織には検出されなかったのだ。(続く)
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