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実験時刻の落とし穴〜日経サイエンス2021年11月号より

夜行性のマウスで昼間に実験すると結果にゆがみが生じるかも

 

マウスは夜行性だ。だが,夜行性動物の実験について実施時刻をきちんと記録している例は少なく,記録のある実験も昼間に行われていることが多いことが,最近の解析によって示唆された。研究例によって異なる結果が生じ,全体にばらつきが生じかねない。

 

この研究で調べた200篇の論文のうち,過半数は行動実験を行った時刻の記載がないか曖昧で,夜間に実験したと報告した例はわずか20%にとどまった。Neuroscience & Biobehavioral Reviews誌に報告。

 

安易な考え方は禁物

この研究論文の筆頭著者となったウェストバージニア大学の神経科学者ネルソン(Randy Nelson)は,これは人間の都合による問題だろうという。「夜よりも昼間のほうが,学生や技師に実験してもらいやすい」。だが,これは代償を伴う。

 

「1日のなかでの時間帯は自発運動活性や攻撃行動,血漿ホルモン値など多くの変数の強さに影響する」だけでなく,これらの変数の変化は概日周期のうち決まった時間帯だけに認められることもあると,ワイオミング大学の行動神経科学者トッド(William D. Todd)はいう。つまり「データ収集や実験の時刻の報告がない場合,結果の解釈が非常に難しくなる」とベス・イスラエル・ディーコネス医療センターの科学者マチャド(Natalia Machado)は付け加える(トッドもマチャドも今回の研究には加わっていない)。

 

科学者は実験を行った時刻を報告し,動物の行動反応と生理反応が時間帯によって変化しうるという事実を考慮することが重要だと研究チームはいう。その手始めとして「1日の時間帯を考慮することが,行動神経科学研究の信頼性と再現性,厳密性を高めるためにすぐにできることだろう」とネルソンはいう。

 

やはりこの研究には加わっていない加カルガリー大学の心理学者アントル(Michael Antle)は,研究の実施法に関するこうした違いが,ある研究結果を別の研究室では再現できないという「再現性の危機」の一因になっているという。「誤った時刻に実験すると,発見できるはずのことを完全に見逃してしまいかねない」。■

 

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