根食い虫を根本的に研究〜日経サイエンス2021年11月号より
根を感知する仕組みを遺伝子レベルで追究
ウエスタンコーンルートワームの成虫は米粒ほどの大きさしかない黄褐色の甲虫だが,米国のトウモロコシに毎年10億ドル近い損害を与えている。幼虫は特に厄介で,土のなかを密かに動き回り,トウモロコシの根に穴を開けて入り込む。
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ウエスタンコーンルートワームの幼虫 |
幼虫は地中のガスなどの化学物質を感知しておいしい根を見つけていると,スイスにあるヌーシャテル大学の化学生態学者マチャド(Ricardo Machado)はいう。トウモロコシが呼吸の副産物として根から放出する二酸化炭素(CO2)に幼虫が引きつけられることは以前から知られていた。だがマチャドは,幼虫がCO2などのシグナルをどのように使って根を探し出しているかを詳しく調べて,より優れた害虫管理戦略の開発に役立てたいと考えた。
RNA干渉でCO2受容体をなくす
マチャドらは「RNA干渉(RNAi)」という技法を使って問題の根を探った。特定の2本鎖RNAを含む溶液にトウモロコシの種子を浸してコーティングし,幼虫に食べさせた。このRNA鎖はルートワームのCO2受容体をコードしている遺伝子の発現を止めるので,幼虫はCO2を嗅ぎつけることができなくなる。
こうして作り出したCO2非感受性ワームは9cm以上離れたトウモロコシの根を見つけられなくなったと,同チームはeLife誌に報告している。だがそれよりも近距離では,CO2を知覚できるかどうかにかかわらず,幼虫は根を嗅ぎつけた。これは幼虫が探しものの場所を絞るために別の匂いを使っているに違いないことを示しているとマチャドはいう。地味な幼虫が標的にたどり着くために複数の感覚入力を使っていることを見事に示している。(続く)
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