SCOPE & ADVANCE

音嫌悪症のメカニズム〜日経サイエンス2021年11月号より

脳の「ミラーリング」が関与しているらしい

 

シェフにとって,舌鼓の音やズルズルすする音,ゴクリとのみ込む音は最高の賛辞の形だ。だが音嫌悪症(ミソフォニア)の人には,その同じ音がひどい苦痛になる場合がある。脳画像を用いた最近の研究で,その理由の一端が見えてきた。

 

他人が食べている音に我慢できない人がいる。
Catherine Falls Getty Images

音嫌悪症の人は特定のトリガー音を聞くと強い不快感やいらだち,嫌悪感を覚える。噛む音やのみ込む音,すする音,咳払いや咳の音,さらには呼吸音までがトリガーになりうる。研究者たちはこれまで,脳が特定の音を処理する際に過剰に活動することでこうした反応が起こるのだろうと考えていた。だが最近のJournal of Neuroscience誌に発表された新しい研究は,一部の音嫌悪症を脳内の「ミラーリング」(しぐさの模倣)の高進に関連づけた。音嫌悪症の人は,トリガー音を生じた口の動きを自分の脳内でまねている際に苦痛を感じている。

 

「これは過去25年の音嫌悪症研究で初のブレークスルーだ」と国際ミソフォニア研究ネットワークの代表を務めている心理学者のブラウト(Jennifer J. Brout)は評する。

 

運動皮質の一部と聴覚皮質に強いつながり

英ニューカッスル大学の神経科学者クマール(Sukhbinder Kumar)が率いる研究チームは,音嫌悪症の人とそうでない被験者を対象に,安静時と各種の音を聞いている際の脳活動を解析した。これらの音には,音嫌悪症のトリガー音(咀嚼音など)と一般に不快とされる音(赤ちゃんの泣き声など),不快でも快くもない中立的な音を含めた。

 

音嫌悪症の人もそうでない被験者も,脳で音を処理している聴覚皮質の反応は同じだった。ただし音嫌悪症の人は,安静時と傾聴実験中の両方で,顔や口,喉の動きを制御している脳領域と聴覚皮質との間に強いつながりを示した。そして,その人の症状に特有のトリガー音を聞いたときに,このつながりが最も活性化されることをクマールは見いだした。

 

「これらの人たちは,音を聞いただけでこれらの運動皮質が強く活性化される。ある意味で,自分自身がその動作をしているようなものだ」とクマールはいう。(続く)

 

続きは現在発売中の2021年11月号誌面でどうぞ。

 

サイト内の関連記事を読む