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腎臓結石の地質学〜日経サイエンス2021年11月号より

結石は自然界の岩石と同様に部分的な溶解と再形成を繰り返している

腎臓結石の形成過程が,地質学という意外な分野の助けを得て,初めて明らかになりつつある。この学際的枠組みと最新鋭の顕微鏡,結石を実験室で成長させる新装置を組み合わせ,体内の結石の成長を止めるか成長を遅らせる新たな方法が開発されている。

結石症は腎臓内の尿中にトゲトゲの鉱物結晶が生じて発症する。成人の10人に1人が激痛を伴うこの病を患い,患者数は特に女性と若者の間で着実に増えている。「多くの人が罹患し,患者本人だけでなく医療システムにも痛手で費用負担がかかる。おまけに再発する。結石が1つできたら,約50%の確率でじきに2つ目が生じる」と,テキサス大学サウスウェスタン医療センターで結石症の治療にあたっている泌尿器科医パール(Margaret Pearle,今回の研究には加わっていない)はいう。

 


腎臓結石の断面。その複雑な形成過程を反映している。
Mayandi Sivaguru and Bruce Fouke

 

石が溶ける局面が存在
地球生物学者のファウク(Bruce Fouke)は10年ほど前,顕微鏡のレンズを向ける先をサンゴ礁から腎結石に変えた。彼はメイヨークリニックとイリノイ大学アーバナ・シャンペーン校の生物学者および医師とともに,腎結石が自然界にある他の多くの石と同様に形成されることを見いだした。一挙に結晶化するのではなく,部分的な溶解と再形成を何度も繰り返しているのだ。「結石は実にダイナミックで,溶解する時期があることに気づいた。この溶解フェーズを利用して結石を治療できるかもしれないと考えた」と,ファウクと共同研究にあたったノースウェスタン・メディスンの泌尿器科医クラムベック(Amy Krambeck)はいう。

腎結石の形成過程を調べるのに適した動物モデルや実験モデルはほとんどなかったとクラムベックはいう。そこで研究チームは「ジオバイオセル」という新装置を開発した。腎臓の複雑な内部構造を模擬したカートリッジだ。これを使うと,様々な因子(腎細胞の活動や尿中のマイクロバイオーム,尿の化学的性質や流れなど)が結石の成長にどう影響するかを調べられる。どれか1つの因子を変えると,結石の成長や溶解が変わってくる。(続く)

 

続きは現在発売中の2021年11月号誌面でどうぞ。

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