中高生が学ぶ サイエンス講義

花王、蚊よけの技術紹介 〜両国高附属中生、感染症対策学ぶ

 花王は6月、新しい蚊よけの技術に関する特別授業を東京都立両国高等学校附属中学校(東京都墨田区)で開いた。蚊が人の肌に止まれなくする仕組みや、カバの汗をヒントに新技術が生まれた経緯などを解説。自らの経験談を通じて研究者の仕事の魅力を語る講師の話に20人の中学3年生が熱心に耳を傾けた。

年間70万人超の命を奪う蚊
 講師は花王パーソナルヘルスケア研究所の仲川喬雄さん、竹内浩平さん、難波綾さんの3人。花王は昨年「未来の命を守る会社になる」と宣言した。仲川さんは「蚊はマラリアやデング熱などの感染症を媒介し、世界で年間70万人以上を殺している。蚊に刺されない技術の開発は人間の命を守る大切な研究」と説明した。

 教室にはオス100匹、メス100匹の蚊(ヒトスジシマカ)が入った箱が準備された。生徒たちは蚊の生態の説明を聞きながら、体長4~5mmのオスとメスをじっくり観察。竹内さんがオス100匹の箱の中に手を入れ、オスは人を刺さないことを確認した。一方、メスの箱では網越しに手を近づけると、蚊が網に止まり、口の針で刺そうとする動きを確かめた。

 メスの蚊は人間が出す二酸化炭素やにおい、体温を感知して肌に止まり、針を刺して血を吸い始める。既存の虫よけ剤(忌避剤)は、成分のにおいで蚊の感知能力をかく乱する仕組みだが、安全面から乳幼児には使いにくいなどの課題がある。花王は全く違うメカニズムで蚊に刺されるのを防ぐ虫よけ剤の研究を2017年にスタートさせたという。

 仲川さんが率いる研究チームは「肌を守る機能が知られていたカバの赤い汗に注目した」。実験でカバの汗を塗布した場所には蚊が止まらないことを突き止めたという。

蚊の足が引きずり込まれる感覚
 「蚊の足は疎水性でアメンボのように水面に浮くことができるが、カバの汗の上に止まろうとすると、逆に蚊の足と親和性があるので足が引きずり込まれる力が働く。体重の約8割という強い力なので蚊は嫌がって止まろうとしない」と仲川さんは解説。花王はカバの汗に似た物性のクリームを開発し、商品化を目指している。竹内さんがこのクリームを腕に塗ってメスの蚊の箱に入れると、塗った部位には蚊が止まらなかった。

 講義では、クリームを商品としてより使い心地のよいものにするために、感触をよくする実験もした。水と片栗粉を手で混ぜあわせ、かき混ぜる力の加減で粘度が変わる「レオロジー」を生徒たちは体感。商品化にはこうした技術も応用されることを学んだ。

 仲川さんは講義の中で今の研究が社会に貢献できるとの実感があることや、研究者の発見によって世界が進歩していることを熱く語った。生徒からは「講師の方々が研究の仕事を楽しんでいて研究者の仕事に興味がわいた」「人の役に立つという視点の大切さを知った」といった感想が相次いだ。  ■

(日経サイエンス2021年10月号に掲載)
※所属・肩書きは掲載当時

サイエンス講義についてのお問い合わせは,sci-ad@nex.nikkei.co.jp までどうぞ。

協力:日経サイエンス 日本経済新聞社