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除虫菊の秘密〜日経サイエンス2021年10月号より

天然の蚊除け剤が働く仕組みが判明

 

蚊が媒介する病気によって世界で毎年約70万人が死亡しているが,忌避剤(虫除け)を使えば命を救うことができる。人類は何千年も前から,除虫菊を虫除けに使ってきた。除虫菊が防虫効果を発揮するメカニズムが最近の研究でついに解明され,Nature Communications誌に報告された。2種類の成分が相乗的に作用して,厄介な吸血者を阻止している。

 

シロバナムシヨケギク(除虫菊)には

強い防虫効果がある。

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この論文の上級著者となったデューク大学の神経毒性学者ドン(Ke Dong)は,蚊は1種類の忌避剤に長い間さらされていると耐性を獲得すると指摘する。なので「現在使われている忌避剤にいずれは代わる新しいものを常に開発していく必要がある」という。防虫のメカニズムを解明すればそれに役立つだろう。「世界中で使われている天然の忌避剤が蚊を防ぐメカニズムを,私たちはついに理解し始めている」。

 

嗅覚受容体Or31

ドンらは除虫菊の効果を観察するため,蚊の触角の毛に微小な電極を取り付けた。忌避剤に対する蚊の反応を,神経細胞にある嗅覚受容体のレベルで測定できる。病気を媒介する蚊の多くはこうした受容体を100種類以上持っているが,研究チームは除虫菊がOr31という特定の受容体を活性化することを突き止めた。そして,遺伝子操作によってこの受容体をなくした蚊が除虫菊を避けなくなることを確かめた。

 

Or31は他の多くの嗅覚受容体と異なり,病気を媒介する既知の蚊すべての種に存在しているとドンはいう。加えて,除虫菊以外の自然の忌避剤の多くは複数の嗅覚受容体を活性化することによって効果を発揮しており,それらの受容体の働きはまだほとんどわかっていない。こうした点を考慮すると,よりよい忌避剤を開発するにはOr31を標的とするのが明らかによい戦略だろうと研究チームはみている。

 

EBFとピレトリン

研究チームはまた,除虫菊が含む2種類の化合物,EBFとピレトリンがどのように忌避反応を引き起こすのかを化学分析によって調べた。実際の蚊を用いた実験から,これら2つの化学物質が組み合わさると最も有効に働くことがわかった。EBFはOr31を活性化し,一方のピレトリンは神経シグナル伝達を強めることによって忌避効果を高めている。(続く)

 

続きは現在発売中の2021年10月号誌面でどうぞ。

 

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