ウイルスか細菌か?〜日経サイエンス2021年10月号より
感染症の原因を素早く判定する血液検査が登場しそうだ
鼻水,せき,発熱――こうした呼吸器感染症の典型的な症状を示す患者が毎日クリニックにやってくる。だが,その原因が抗生物質で撃退できる細菌なのか,あるいは薬による治療がより難しいウイルスなのか,医師にもわからない場合が多い。ところが,これを素早く判定する正確な診断テストが近く可能になる可能性があるという。外来のその場で判定可能だ。
診断が難しい感染症の原因がわからない場合,医師はレンサ球菌など一般的な細菌の検査を依頼することがある。あるいは症状が重いと,単にそれだけで抗生物質をとりあえず処方する。だが,抗生物質の使い過ぎは危険な耐性細菌株の出現につながることもある。「原因が細菌かウイルスかをすぐに区別できれば,不適切な抗生物質の処方をしないですむ」とデューク大学の感染症専門医ツァリク(Ephraim Tsalik)はいう。ツァリクらは2016年,一般的な呼吸器症状をウイルスあるいは細菌,または非感染性の原因と結びつける臨床検査を開発した。それぞれの病原体は宿主の一連の異なる遺伝子を活性化するため,作り出されるRNAやタンパク質も異なることを利用した検査で,少量の血液検体に含まれるこうした「遺伝子発現」の特徴を見分けるものだ。
遺伝子発現パターンをもとに判定
同チームは最近,バイオファイアという企業と共同でこの検査を迅速化し,1時間以内に結果が出るようにした。この新検査法を救急治療室に担ぎ込まれた600人の患者で試した結果,細菌感染症を80%の確度で,ウイルス感染症を87%近い確度で特定できた。これに対しツァリクが評価した通常の臨床検査の確度は約69%だった。その他の検査方法は時間のかかる培養を要するか,医師が指定した特定の病原体しか確認できない。これらの結果はCritical Care Medicine誌に報告。(続く)
続きは現在発売中の2021年10月号誌面でどうぞ。