ラット駆除で島の生態系が復活〜日経サイエンス2021年9月号より
海の生物にも好影響
当時「ラット島」として知られていたアラスカのハワダックス島をカリフォルニア大学サンディエゴ校の保全生態学者カール(Carolyn Kurle)が初めて訪れたとき,すぐにその静けさに気づいた。「ラットがいない島に行くと,至るところ鳥だらけで,それはそれは騒がしい」とカールはいう。「なので,ラットがいる島は対照的な静けさによって,それとわかる」。
いまやハワダックス島は再び騒がしい場所になった。捕食動物のラットを島から駆除する約10年間の努力が実を結び,多くの海鳥が戻ってきた。その効果は島の海岸の生態系全体に広がり,多様な生命が再び満ちあふれている。Scientific Reports誌に報告されたこれらの結果は,損なわれた生態系も機会を得れば驚くべきスピードで回復しうることを示している。
「人間が自らの行いの後始末をつければ事態を改善できることを示す実例だ」と,論文の筆頭著者となったカールはいう。「また,生物がすべて互いにつながっており,とりわけ海岸の生態系ではそうであることを浮き彫りにしている」。
ラットが侵入すればコンブが消える
カールはもともと博士論文の研究のために,人里離れたアリューシャン列島の島にラットが与える生態学的影響を調べ始めた。1780年代に日本の難破船がハワダックス島に大食らいのラットを持ち込んだとみられ,海鳥の群落があっという間に一掃された。カールが2008年に論文発表した最初の研究は,ラットが鳥だけでなく藻類に至る食物網全体に影響したことを示した。海岸の無脊椎動物を食べる鳥がいなくなったため,巻貝やカサガイなどの草食動物の数が爆発的に増え,海中のコンブがほとんど食べ尽くされた。コンブは他の生物に重要なすみかを提供している。「侵入種のなかには,明らかに目に見える直接の影響だけでなく,それを超えた幅広い影響を及ぼすものがある」とカールはいう。
こうした初期の発見を契機に,米魚類野生生物局(FWS)はネイチャー・コンサーバンシーおよびアイランドコンサべーションと協力してハワダックス島に毒餌を落としてラットを駆除した。カールらは研究資金を得て,駆除活動から5年後と11年後に島の状況を調査した。その結果,潮間帯の生態系が着実に回復し,現在ではラットの侵入を受けたことのないアリューシャン列島の他の島と同様に,海生無脊椎動物がかなり減ってコンブがずっと増えていることがわかった。(続く)
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