テントウムシの滑らない足〜日経サイエンス2021年9月号より
40年にわたる議論に終止符,決めては足裏の毛にあり
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垂直のガラス面にくっつくテントウムシ 細田奈麻絵(物質・材料研究機構) |
物質・材料研究機構の細田奈麻絵グループリーダーらは,ガラス面でも滑らずに歩くテントウムシの足のしくみを解明した。足の裏の毛とガラスとの間で分子同士が引き合う力が働き,「接着」した状態にあった。壁を上る災害用ロボットの足などへの応用を目指す。
接着の力を巡っては,約40年にわたって議論が続いていた。カブトムシの足はつるつるしたガラス面を上れないが,テントウムシの足は自在に動ける。足の毛と接地面の間に分子レベルで引き合う「分子間力」が働いているのか,足裏から出る分泌液の「表面張力」による作用なのかわかっていなかったという。
研究チームは足の毛と接地面の間の隙間を測った。隙間が分子間力の働く距離よりも広ければ,分子間力による接着ではないとわかる。測定に使った直径10〜20nmの微細な粒子より隙間は狭く,分子間力が働く距離だった。テントウムシにひもをつけて引っ張ると,引っ張る力は計算で求めた分子間力と表面張力の大きさのうち,分子間力と関係があった。そこで接着の力は分子間力がもたらすと結論づけた。テントウムシのけん引力は60kgの人に置き換えると1.7トンを引く力に相当するという。
今回の発見は,生物の持つしくみを工業製品に応用する生物模倣技術(バイオミメティクス)に生かせる。滑りやすい場所を動き回るロボットや,吸盤を使わずに部品をつかむロボットの開発を目指す。テントウムシの足の細かい毛を再現するのが課題だが,細田氏は「数年後をめどに実証実験を成功させたい」と話す。■
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