空気の湿度変化で発電する〜日経サイエンス2021年8月号より
塩化リチウムを使った「湿度変動電池」の試作に成功
梅雨時の天気はうっとうしい。たまに太陽が顔を出してもすぐ雨だ。しかしこんな天気の変化からエネルギーが取り出せると聞けば,少し気分が晴れるかもしれない。
産業技術総合研究所の駒﨑友亮研究員らが開発した「湿度変動電池」は,湿度の変化で電気を起こす一風変わった発電装置だ。手乗りサイズの試作品を作り,周囲の湿度が90%から30%まで低下した時に最大30µWの出力を確認した。これだけの出力があれば,腕時計やカード型の電卓なら十分に動かせる。湿度が上がる時も発電できる。
発電装置はイオン交換膜で隔てられた上下2槽の水槽に電極を差した構造だ。水槽の中は塩化リチウムの電解液で,上の水槽はふたがついていない。塩化リチウムは高い潮解性を持つ強力な吸湿剤で,固体の塩化リチウムは周囲の湿気を吸ってベトベトになる。水溶液の状態でも周囲の湿度が高いと空気中の水分をさらに取り込むので,湿度が高いほど溶液は薄く,逆に湿度が低ければ濃くなる性質がある。
湿度変動電池を高湿度や低湿度の環境に置くと,上下の水槽の間で濃度差が生まれる。その結果,水槽を隔てる膜をリチウムイオンが移動し,2つの電極の間に電圧の差が生じる。これが湿度変動電池の発電メカニズムだ。もともと潮解性物質を使った湿度センサーの開発をしていたところ,「湿度に応じて溶液の濃度が変わるなら発電できそう」(駒﨑研究員)と気付いたのが開発のきっかけだという。
試作した湿度変動電池(左)と,湿度の変化で発電する仕組み(右)。湿度が低いと水分が蒸発して上の 駒﨑友亮/日経サイエンス |
日中と夜の間で湿度は変化するため,屋外に置いておけば毎日稼働する。IoT機器の電源に向くとみられており,たとえば橋の下でインフラ監視を行うセンサーなどが考えられる。太陽電池と併用しつつ,夜間の電力を湿度変動電池から得ることもできそうだ。■
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