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拒絶反応を血液検査で検知〜日経サイエンス2021年7月号より

心臓移植患者の血中に放出されたドナー由来のDNAを追跡する


 心臓移植は手術を受けるだけでも大変だが,数カ月後に免疫系が移植臓器を攻撃し始める場合があり,そうなると致命的だ。医師は拒絶反応の兆候である炎症をチェックするため,移植した心臓から組織片を採取して調べる必要がある。通常は最初の1年間に16回ほどだ。「この処置は患者にとってリスクとなり,結果の信頼性も低いのだが,こうした生検が現在の標準となっている」とスタンフォード大学の心血管医学研究者バランタイン(Hannah Valantine)はいう。

 だが,DNAに基づく新たな血液検査は移植心臓が拒絶反応にあっていることを検知し,医師に早い段階で対処する時間的余裕をもたらす可能性がある。バランタインが共著してCirculation誌に発表した論文によると,この血液検査によって侵襲的な生検の回数を約80%減らせる。

損傷細胞が放出するDNA

 この研究でバランタインらは心臓移植を受けた患者の血液検体に含まれるドナー由来のDNAを特定し,血漿に見られるDNAのうちドナー由来の割合を計測した。移植心臓の細胞で損傷したり死にかけたりしているものは健康な細胞よりも多くのDNA断片を放出するので,血漿中にドナー由来DNAの量が多いと拒絶反応が起こっているリスクが高いと考えられる。これを早い段階で把握すれば,医師はしかるべき処置を始めて状況を改善できる。

 今回の研究では最近に移植を受けた171人の血液検体を解析し,検出されたDNAに占めるドナー由来DNAの割合が0.25%を超えると拒絶が起こっている可能性が高いことを突き止めた。この検査は組織生検よりも明確で,より早い段階で拒絶の兆候を把握できた。また,特に致命的で生検では見逃されがちな「抗体関連型拒絶反応」の兆候も早期に把握できた。

 この研究で被験者となった移植患者の約44%は黒人で,この点が特に重要だとバランタインはいう。アフリカ系米国人は心臓に限らずすべての移植臓器で拒絶反応を起こすリスクが高いことが多くの研究で示されているからだ。

 この検査法は有望に思えるが,検査結果に基づいた治療がどれだけ効果を上げるかを評価するには長期の臨床試験が必要だと加ブリティッシュコロンビア大学の医学研究者テバット(Scott Tebbutt)は評する。非侵襲の検査は非常に貴重であり,「生検の回数を半分に減らすだけでも患者の生活の質は格段に向上する」という。■


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