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この血痕の主は誰だ?〜日経サイエンス2021年7月号より

人間の血か動物のものかを分光法と機械学習で素早く判定


 眠気と戦いながら車を運転していて暗い道でドンという大きな音を聞き,後でバンパーに小さな血痕を見つける。あるいは警察が犯罪現場で,ごく小さいが疑わしい血痕を発見する。これらが人間の血なのか動物の血なのかを素早く判別することが重要だが,それに必要な検査は時間がかかるうえ,貴重な証拠を破壊してしまうだろう。最近報告された新技術が役立つかもしれない。

 ニューヨーク州立大学オールバニ校にいる法化学者のレドネフ(Igor Lednev)とミステク=モラビト(Ewelina Mistek-Morabito)は人間の血液を素早く特定する非破壊的な方法を開発するため,分光法と統計処理を組み合わせた。人間の血液の乾燥試料と,犬や猫,フェレットなど一般的なペットのほか自動車と衝突事故をよく起こすシカを含む10種の動物の乾燥血液試料に赤外光を当て,血液の組成によって変わる反射光のスペクトルを記録した。このデータを用いて機械学習アルゴリズムを訓練し,人間由来と動物由来の試料を素早く正確に識別できるようにした。

 「DNA解析のために試料を検査に回す前に,事件に関連のあるものを絞り込むのに役立つだろう」とミステク=モラビトはいう。科学捜査官は現在,人と動物の血液を判別するのに破壊的な生化学検査を使っており,間違った結果が出ることもある。新システムの正確さは実地ではまだ評価されていないが,初期の結果は有望だとミステク=モラビトはいう。


現場を検査ラボにする携帯機器へ

 Communications Chemistry誌に発表されたこの研究で同チームは卓上型の装置を試作して報告した。レドネフは現在,これを持ち運び可能な携帯機器に適用する試みに取り組んでいる。最終的には,体液の痕跡を現場で特徴づけられる一体型の便利な分光ツールを思い描いている。「携帯機器が将来像だ」とミステク=モラビトはいう。「事件現場に検査ラボを持っていくのだ」。

 「この研究は血液試料を非破壊で解析する方法に関するひとつの概念実証だ」と,この研究には加わっていないサウスフロリダ大学の法医学者マッセイ(Peter Massey)はいう。実際に現場で使えるようにするには,装置を小さく,使いやすく,手ごろな価格にする必要があると付け加える。(続く)


続きは現在発売中の2021年7月号誌面でどうぞ。

 

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