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泥火山のメカニズム〜日経サイエンス2021年7月号より

ロクバタンという山が例外的に活発である理由

 

溶岩を吐き出すものだけが火山ではない。なかには泥を噴出する火山がある。それも大量に。泥火山(でいかざん)と呼ばれるタイプだ。大半はたまに小さな泥の塊を噴き上げるだけだが,強烈な爆発を頻繁に起こすことで知られる泥火山が1つある。最近の新たな研究は,その激しい噴出の原動力が何なのか,そしてどれほど強烈な噴出になりうるかを説明している。

 

ノルウェーのオスロ大学に所属する泥火山学者マッツィーニ(Adriano Mazzini)らはアゼルバイジャンにあるロクバタンという泥火山を調査した。イランのすぐ北にあるこの小国をマッツィーニは「泥火山の王国」と呼ぶ。アゼルバイジャンには数百の泥火山が存在するが,ロクバタンは格別だ。

 

ANDREY SHEVCHENKO Alamy Stock Photo

 

記録に残っているロクバタンの最初の爆発は1829年に起こった。それ以降ほぼ5年おきに泥の柱を噴き上げており,ときには高さが100mを超えることもある。近くに石油とメタンの堆積層があり,爆発の際にこれらが自然発火するため,泥の噴出に炎と煙が伴うことが多い。その光景はマグマの供給を受けた通常の火山に匹敵する。「同様の壮観と迫力だ」とマッツィーニはいう。

 

ガスの蓄積

ロクバタンの爆発を詳しく調べるため,マッツィーニらは山腹に30台のガス検知器を設置して漏れ出したメタンと二酸化炭素を測定した。ガスを常に大気中に放出している他の泥火山に比べ,ロクバタンの地下ではガスの蓄積が急速に進んでいるというのが研究チームの仮説で,これを検証するためだ。

 

観測の結果,ロクバタンの「脱ガス」のペースが付近の泥火山の1/100に満たないことがわかった。このため,ひとたび泥の噴出が起こると,ガスが猛烈な勢いで漏れ出した後,噴き上がった泥が再び落ちてきて火道を実質的に塞いでしまうとチームは結論づけた。「落ちてきた泥が固まり,栓になる」とマッツィーニはいう。これでガスが閉じ込められ,しだいに蓄積して次の爆発的噴出を引き起こす。(続く)

 

続きは現在発売中の2021年7月号誌面でどうぞ。

 

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