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タイタンの深い海〜日経サイエンス2021年7月号より

土星最大の衛星の最大の海は高層ビルを呑み込む深さがあるようだ

 

土星の衛星タイタンは太陽系では地球以外で唯一,液体をたたえた湖や海が表面に存在することが知られている場所だ。それらの特徴は科学者の強い関心の的となっている。新たな解析の結果,タイタン最大の海「クラーケン海」の深みが垣間見えた。低温のメタンとエタン,窒素からなるこの海はかなり深いようだ。

 

探査機カッシーニがもやに覆われたタイタンを2014年8月に通過した際に行ったレーダースキャンのデータを新たに解析して判明した。レーダーのデータから,クラーケン海のうち海底を検知できた場所と検知できなかった場所について,それぞれの深さを推計した。

 

土星の衛星タイタンの赤外線画像。NASA の探査機カッシーニが
13年間にわたって集めたデータを組み合わせて画像化した。
NASA, JPL-CALTECH, UNIVERSITY OF NANTES AND UNIVERSITY OF ARIZONA

 
クラーケン海北部の大きな入り江に関しては海底が検出された。ここでは海面で反射された信号と,液体を透過した後に海底で反射されて戻ってきた信号が認められ,この入り江部分の深さが最大85mであることがわかったとコーネル大学の惑星科学者ポジャーリ(Valerio Poggiali)はいう。一方,クラーケン海の中央部と西部については海底からの反射がとらえられず,中央部の深さは少なくとも100m,あるいは300mを超えている可能性がある。Journal of Geophysical Research: Planets誌に報告。

 

「外太陽系の衛星について水深測量を実施できるというのは素晴らしい」とジョンズ・ホプキンズ大学応用物理学研究所の惑星科学者タートル(Elizabeth Turtle,今回の研究には加わっていない)はいう。「タイタンを理解し探査ミッションを計画するのに役立つデータを提供するという点で,今回の結果は非常に有益だ」。

 

ただ今後の研究で,海底からの反射が検出されなかった理由が深すぎたからではなく,液体がレーダーの信号を想定以上に吸収したためだと判明する可能性もあるという。つまり,クラーケン海の組成に関する現在の推定が外れている可能性だ。研究チームはデータに基づき,クラーケン海の組成を温度-182℃の液体メタンが約70%,液体窒素16%,液体エタン14%と計算している。カッシーニが通過した際,クラーケン海の表面の波の高さはわずか数mmだった。(続く)

 

続きは現在発売中の2021年7月号誌面でどうぞ。

 

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