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妊娠中の運動が子の肥満を防ぐ〜日経サイエンス2021年7月号より

運動がお腹の子どもに与える影響の
分子メカニズムが見えてきた


 肥満や糖尿病の女性から生まれた子は将来,母と同じ悩みを抱える可能性が高いことが,多くの疫学調査から示されている。肥満や糖尿病の改善には運動が効果的だが,妊娠中の母親が行う運動は,お腹の子にも好ましい影響を与える可能性がある。

 東北大学学際科学フロンティア研究所の楠山譲二助教はハーバード大学ジョスリン糖尿病センターなど,日・米・カナダ・デンマークの4カ国8研究機関の研究者とともに,妊娠中の運動が子の将来的な糖尿病リスクの低減につながる分子メカニズムを突き止めた。マウスの研究で,母親の運動効果が胎盤を通じて子に伝わることを明らかにしたのだ。詳細はCell Metabolism誌5月号に掲載された(オンライン版は3月25日)。

 母の運動効果は子マウスに伝わる。その決め手となるのは
 タンパク質のスーパーオキシドジスムターゼ3(SOD3)だった。
 東北大学/三根敬一朗(Lab icons)

 太った女性から生まれた子は将来的に太りやすいことは多くの疫学調査が示している。例えばフィンランドのライティネン(Jaana Laitinen)らが2001年に発表した研究では,1966年生まれの5729人の31歳でのBMI(体格指数)と母親の妊娠初期のBMIとの関係を見ている。BMIが標準域の母親では,子も標準に収まっているのに対し,母親の肥満傾向が強くなるにつれ,31歳になった子も太っている傾向が見られた。肥満の母から生まれた子は肥満になりやすいという知見は,「研究者の間ではコンセンサス(合意)が得られており,この問題をどう解決するかを考える段階にある」と楠山助教は言う。

 楠山助教らはマウスでの先行研究で,妊娠中に運動した母から生まれた子マウスは糖代謝能が高いことを示した。この効果は人間の中高年にあたる52週齢でも見られた。子マウスを調べると,肝臓で糖や脂質の代謝にかかわる一連の遺伝子群の発現量が向上していた。

子の遺伝子発現に母の運動が影響

 子マウスの肝細胞のDNAでは,糖代謝や脂質代謝に関係する個々の遺伝子のすぐ隣にある領域のメチル基が外れていた。ここはプロモーターという“遺伝子発現スイッチ”の領域で,プロモーターに結合していたメチル基が外れると近隣にある遺伝子が発現しやすくなる。メチル基の着脱のように化学修飾で遺伝子の発現が調節される現象は「エピジェネティクス」と呼ばれ,現在研究が盛んになっている分野だ。(続く)

続きは現在発売中の2021年7月号誌面でどうぞ。

 

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