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捨て身で防ぐチョウの攻撃〜日経サイエンス2021年6月号より

一部の植物は葉の組織を犠牲にして

チョウに産みつけられた卵を振り落とす

 

Hans M. Smid

キャベツなどアブラナ科の植物の一部は,腹ぺこのイモムシを防ぐために捨て身の戦術を取る。チョウに卵を産みつけられた葉の部分を枯死させるのだ。生きた土台を失った卵は干からびて死ぬ。このようにして卵を殺す能力は1980年代には報告されていたが,最近の研究で,この能力を備えているのはアブラナ科の少数の近縁種だけであり,特定の種のチョウに対してだけ起こる反応であることが示された。

 

アブラナ対モンシロチョウ

蘭ワーゲニンゲン大学のファトゥロス(Nina Fatouros)らは,アブラナ科の31種の植物を調べた。まず,その植物の葉に,その植物に産卵することが知られているチョウの卵の物質にさらした液体を塗布した。この結果,4つの近縁種で,液体を塗布した葉の部分が確実に枯死した。続く実験で,これら強い反応を示した種は,モンシロチョウ属(Pieris)に属する一群のチョウから採取した卵物質に対してだけ強く反応することが確かめられた。これらのモンシロチョウは自然界で実際にこれらの植物種に産卵している。

 

これは特定の種のチョウが植物に壊死防御の進化を促したと考えられる「明らかな証拠」だとファトゥロスはいう。研究チームはさらに,野生のチョウが葉に産みつけた卵を追跡して,この防御機構によって卵が乾燥するか葉から分離することを確認した。New Phytologist誌に報告。

 

進化上の“軍拡競争”

「これが偶然に起こっているとは考えにくい」と,英シェフィールド大学の分子植物生物学者トン(Jurriaan Ton,この研究には加わっていない)はいう。これらの植物の近縁性と,チョウに対するその際立った反応は,この植物と昆虫の間で進化上の苛烈な“軍拡競争”があったことをうかがわせると付け加える。

「この形質が植物の特定の科に出現したのを実際に観察した例は,私が知る限り初めてだ」と,ロンドン大学ロイヤル・ホロウェイ校の生態学者コリチェバ(Julia Koricheva)は評する。

 

この形質がいつごろ進化したのか,今後の研究で探ることになるだろうとファトゥロスはいう。また,軍拡競争というのはなかなか終わらないものだ。実際,チョウが反撃に出ている可能性を示唆する証拠もあるという。一部のチョウは卵を密集した塊にして産みつけ,植物の防御戦略の影響を受けにくくしている。■

 

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