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ポンペイの壁画と噴火堆積物〜日経サイエンス2021年6月号より

フッ化物塩の生成で劣化する懸念

 

イタリアの古代都市ポンペイはベスビオ山の噴火による火山灰と火山岩に覆われ,発見され発掘が始まるまで1500年以上にわたって地中に埋もれていた。ほとんどの考古学者は,この噴火堆積物が未発掘の遺跡を今後も安全に保護してくれるだろうと期待している。だが新たな研究によって,火山砕屑物(さいせつぶつ)と呼ばれるこれらの物質そのものが,ある条件下で損傷をもたらす可能性が示唆された。

 

火山砕屑物が水に接触するとフッ化物イオンが水中にしみ出すことが,Angewandte Chemie International Edition誌に報告された。フッ化物イオンが他のイオンと結びつくと,色鮮やかさで知られるポンペイの壁画に塩(えん)の外皮が生じる。この塩が溶解し再び結晶化する過程で,色素の変色やひび割れなどの影響が生じる恐れがある。

 

水と空気にさらされると…

研究にあたったのはスペインにあるバスク大学の化学者マグレギ(Maite Maguregui)らのチーム。発掘ずみのポンペイの壁画の表面にフッ化物塩を検出し,原因として火山砕屑物を疑った。「私たちにとって,フッ化物は火山砕屑物の影響を示す目印だ」とマグレギはいう。フッ化物イオンは大気中には極めて少ないが,火山が噴出する灰や岩屑のなかに含まれる。

 

研究チームはフッ化物が火山砕屑物に由来することを証明するため,様々な深さから採取した火山灰と火山岩の破片を実験室で調べた。これらの破片を水にさらしたところ,フッ化物イオンがにじみ出てくるのが観察された。また,こうして放出されたイオンの濃度が,壁画上に見つかったような塩を形成するに十分であることを計算で示した。

 

ポンペイに埋まっている壁画は,乾燥した状態のままなら比較的安全だとマグレギはいう。だが地中であっても,地下水や降雨によってイオンが溶け出すと,有害な塩を形成する場合がある。壁画が空気にさらされると塩の形成に拍車がかかり,この害が劇的に悪化する。(続く)

 

続きは現在発売中の2021年6月号誌面でどうぞ。

 

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