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花もどき〜日経サイエンス2021年6月号より

ある種の真菌は植物に感染して本物によく似た黄色い“花”に化ける

 2006年にガイアナに採集旅行に行った植物学者ワーダック(Kenneth Wurdack)は,カイエトゥール国立公園の飛行場沿いを歩いていて,イエロー・アイド・グラスと呼ばれるニワゼキショウ属の植物2種の花が少し奇妙なことに気づいた。この植物の典型的な黄色い花とは違って,少し赤っぽいオレンジ色で,花弁が密集し,手触りがふわふわしている。

 ワーダックは関連する植物学の文献を調べ,このオレンジ色の奇妙な物体が実は花ではないことを知った。

K. Wurdack Smithsonian Institution


 それは真菌が擬態したものだった。スミソニアン国立自然史博物館に所属するワーダックらは最近,この生物について調べた結果をFungal Genetics and Biology誌に報告した。フザリウム・キシロフィルム(Fusarium xyrophilum)というこの真菌はトウエンソウ属(Xyris)の植物に感染して不稔化し,花をつけるのを妨げる。その後,植物の機能(具体的にはまだ不明)を乗っ取り,すべてが真菌組織でできた擬態花を掲げさせる。受粉媒介昆虫を欺いて,植物の花粉ではなく自分の胞子を運ばせるためだろう。

 「偽の花がまるごと真菌でできているなんて,私たちが知る限り地球上で他に例がない」と米農務省の微生物学者でこの研究論文を共著したオドネル(Kerry O’Donnell)はいう。植物を装う真菌はいくつか知られているものの,宿主の葉を部分的に変える程度で,偽の花を作り上げるものはない。

紫外光の反射や匂いも

 研究チームはキシロフィルム菌の擬態は花の形をまねているだけでなく,もっと奥深いのではないかと考えた。例えば多くの植物は受粉媒介昆虫が匂いや紫外光を手がかりに花を探すことを利用している。そこで,この研究論文の主執筆者となった米農務省の微生物学者ララバ(Imane Laraba)は紫外線フィルターを使って,ワーダックが2010~2012年に採集したキシロフィルム菌の擬態花を写真撮影した。

 すると予想通り,真菌でできたこれらの擬態花は紫外光を反射した。これは受粉媒介者に見つけてもらいやすいように多くの黄色い花が持っている性質だ。野生のトウエンソウ属の花も紫外光を反射している可能性が高いとララバはいう。この擬態花から分離された2種類の色素(実験室で培養したキシロフィルム菌にも確認)が紫外線を反射する性質を生み出しており,特にハチにとってよく見える波長の光を発していると考えられるという。(続く)




続きは現在発売中の2021年6月号誌面でどうぞ。

 

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