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予測の代償〜日経サイエンス2021年6月号より

記憶がおろそかになるようだ

 予測という作業が,現在の出来事を記憶する妨げになることが,最近の研究で示唆された。出来事の記憶に関与している海馬という脳領域は,経験をもとに予測する作業(「統計的学習」と呼ばれる)も担っている。だが,後者の機能は前者を邪魔する場合があることが,米国科学アカデミー紀要に報告された。

 研究チームは被験者に画面上で一連の写真を見てもらった。被験者にはそれと説明していないのだが,これらの写真の一部は,例えば浜辺の写真の次には必ず山の写真が出てくるというように,あるカテゴリーの写真の後に特定の別カテゴリーの写真が表示されるようになっている。被験者は無意識のうちにこうした関連性を学習し,次に出てくる写真を予測するよう仕向けられた。その後,これらの写真に新たな写真を追加したものを見せ,以前の実験で見た写真はどれかを尋ねた。この結果,関連づけなしにランダムに提示された写真のほうが,「予測のきっかけ」となる写真(浜辺など)よりもはるかに正確に記憶されていた。

 次に,被験者の脳を機能的磁気共鳴画像装置(fMRI)で観察しながら実験を繰り返した。目にした写真のカテゴリーに応じてそれぞれ特徴的なパターンの神経活動が生じるが,「予測のきっかけ」となる写真が表示されているときには,その「予測結果」にあたるカテゴリーに対応する神経活動パターンが海馬に生じた。さらに,fMRIに表れたこの効果の強度は被験者の記憶テストのスコアに反比例した。

 「被験者が予測したことを示す証拠が強いほど,その予測のきっかけを与えた写真に対する記憶は悪くなった」と,研究論文の主執筆者となったエール大学の認知神経科学者シャーマン(Brynn Sherman)はいう。「予測のきっかけ」となる写真を見たのを機に海馬が予測作業に力点を移し,その写真を新たな記憶として記録する作業がおろそかになったことをうかがわせる。(続く)




続きは現在発売中の2021年6月号誌面でどうぞ。

 

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