SCOPE & ADVANCE

無線給電で動作する通信素子〜日経サイエンス2021年6月号より

慶大,インフラ点検などへの応用狙う

 

慶應義塾大学の三次仁教授らは,電源不要の通信用素子を開発した。マイクロ波で稼働に必要な電気を供給するのが特徴で,双方向通信が可能だ。様々なセンサーと組み合わせて使うことを想定しており,建物やインフラ設備に取り付けて損傷の有無を点検してデータを送信したり,人体に貼り付けて健康管理に役立てたりする。2024年度以降の実用化を目指す。

 

慶大の湘南藤沢キャンパス(神奈川県藤沢市)。広大な敷地にひっそりと立つ研究棟の一室で,三次教授がパソコンのキーボードを操作する。すると3mほど離れたところにある6つの温度センサー付き素子が,バッテリーも搭載していないのに周囲の気温のデータを送信してきた。

 

三次教授が開発したこの素子はマイクロ波による給電のみで動いている。消費電力は数十µWと非常に小さいため,マイクロ波による1W程度の給電で全ての電力を賄える。人体への影響はほぼないという。マイクロ波給電は通常,消費電力10W以上の機器に送電するのが一般的で,人体への影響も考慮する必要があった。再生可能エネルギーや熱,振動などを利用して発電し,付属バッテリーに給電する方法などが提案されているが,使用する環境の影響を受けやすく安定して発電することが難しい。

 

日本では高度経済成長期などに整備されたインフラの老朽化が進む。目視ではわからない損傷を効率よく見つけて修繕する必要がある。振動の微妙な変化などから損傷具合を把握するセンサーを活用する研究が進んでいるが,その電源をどのように賄い,データをどう送らせるかが課題だった。三次教授はこうした課題をマイクロ波給電で解決しようと考えている。

 

素子は小売業などで商品管理に使う無線自動識別(RFID)タグの技術を応用しており,受発信機と組み合わせて使うことで双方向通信ができる。センサーからデータを取得し発信するだけでなく,受発信機から各素子に別々の命令を送ることも可能だ。

 

日常の健康管理にも役立つとみている。素子をばんそうこうのように皮膚に貼り付け,センサーで読み取った血圧や心電図などの生体情報を一挙に取得できれば,健康診断の時間短縮や手間の削減などにつながる。(続く)

 

続きは現在発売中の2021年6月号誌面でどうぞ。

 

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