SCOPE & ADVANCE

宇宙での光通信〜日経サイエンス2021年5月号より

遠く離れた探査衛星からのデータ通信容量を拡大

新たなレーザー技術は深宇宙通信の質を高め,最後のフロンティアの開拓を容易にする可能性がある。

現在の宇宙通信の多くは電波による無線信号に頼っている。だが無線信号は光その他の電磁波と同じく,伝播に伴い回折して広がる。月から地球に向けて発射した電波ビームは「たいてい大陸サイズに発散してしまう」とスウェーデンにあるチャルマース工科大学のフォトニクス研究者アンドレクソン(Peter Andrekson)はいう。これに対し「レーザービームの発散は半径2km程度ですむ」。彼らが共著した宇宙光通信技術に関する今回の論文はLight: Science and Applications誌に掲載。

火星のような離れた場所から宇宙を伝播してきた無線信号を十分にとらえるには,実に大きなパラボラアンテナが必要になる。米航空宇宙局(NASA)が運用する最大の受信アンテナは直径70mに及ぶとマサチューセッツ工科大学リンカーン研究所の光通信工学者ロビンソン(Bryan Robinson,今回の研究には加わっていない)はいう。「ジンバル(回転台)の上にフットボール競技場をのっけて火星に向けているようなものだ」。

これに対しレーザー通信の受信機は直径約20cm(おひとり様用ピザのサイズ)ですむうえ,レーザービームは電波よりもはるかに多くの情報を伝えることができる。ただし伝送されるレーザー信号のパワーは電波信号よりも小さいので,受信後に気の遠くなるような増幅処理が必要になる。


位相感応型増幅や光子計数受信機

研究チームの新しい受信機は「位相感応型増幅(PSA)」という技術を利用する。光子間の相互作用を操作することにより,信号の質を低下させずに受信信号を強める技術だ。従来の増幅器では処理に伴って必然的にノイズが加わるのに対し,この方式は「非常に興味深い」とロビンソンはいう。深宇宙の真空を模擬した環境下で,回折を加えて長距離伝送をシミュレートした実験で,毎秒10.5ギガビットというこれまでにない情報量をノイズなしで受信できる感度を示した。次の課題は,地球大気が信号に引き起こすひずみを克服することだろう。

2013年,リンカーン研究所とNASAは別タイプのレーザー通信を宇宙船と地球の間で実験し,成功を収めた。検出器に達した光の粒子(光子)の個数を数え上げる「光子計数受信機」を使う方法だ。データを数値的に符号化できるため伝送効率を極めて高くできるが,-270℃の極低温でしか機能しない。一方のPSA受信機は室温で動作する。(続く)



続きは現在発売中の2021年5月号誌面でどうぞ。

 

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