日立システムズが特別講義 〜川越女子高生、データ分析を学ぶ
ビッグデータ時代の到来で注目度が高まる「データサイエンス」の特別講義が2020年12月、埼玉県立川越女子高等学校(川越市)で開かれた。ITサービス大手の日立システムズのデータサイエンティストである板井光輝氏が教壇に立ち、数学や統計学に基づくデータ分析がビジネスや社会の様々な課題解決に役立っていることを解説。生徒たちは表計算ソフトを使った簡易分析ツールを実際に操作して仮想企業の顧客データを分析し、企業が抱える業務課題の解決策を探る演習に挑んだ。
テーマパークの課題を考察
受講したのは文理選択を控えた同校1年生37人。板井氏は「数学Ⅰ」の知識で利用できるデータ分析ツールを準備。受講生は実践的な演習を通じて、いま学んでいる数学が具体的に社会でどのように役立っているかを学んだ。分析したサンプルデータは、テーマパークの来場客の年齢や性別、レストランや物販などの利用金額・好感度など多岐にわたる大規模なもの。最初は表計算ソフトの扱い方に戸惑っていた受講生もすぐにマスターし、3~4人の班に分かれて来場客データの特徴を分析した。
実際のデータ分析の現場では、収集したデータを分析しやすい形に前処理する「データ整形」が成功のカギを握ると板井氏。「全工数の7~8割をデータ整形に費やすこともある」という。そこからデータの平均値、中央値、標準偏差などの基本統計量やヒストグラム(度数分布図)を使って、収集データの特徴を俯瞰的に把握する工程に移り、さらに詳細な解析を加えて有益な情報を抽出する。
今回の演習では受講生たちが簡易分析ツールを使い、サンプルデータの項目を色々と組み合わせたヒストグラムを作成。パソコン画面に表示されたグラフの形状などから確率分布を読み解きながら、テーマパークが抱える「来場客は増えているのに売上高が伸び悩む」という課題を考察した。
ある班は「物販やテイクアウトの利用者の好感度は高いが、レストランやカフェは低い。アトラクションの利用回数に比べて、レストランなどの利用が少なく、飲食に重きを置いていない顧客像が浮かび上がる」と分析。そのうえで「レストランやカフェは一人当たりの利用金額が大きいので、インスタ映えする商品を増やして利用を促せば、売り上げ増につながる」との仮説を導き出した。
数学と統計学で広がる将来
演習を終えたある受講生は「企業のアンケートが、商品やサービスを開発するためにこのように活用されているのだとわかった。データ分析の意義を実感できた」と特別講義を受けて視野が広がった様子。数学が苦手という受講生は「世の中には数学があふれていて、文系でも数学・統計学が大切だと理解できた」と感想を語った。
板井氏は講義の最後に「解析学」「幾何学」「代数学」が産業界で活用されている事例を紹介したうえで「データを扱わない業界や職業はほとんどない。数学・統計学を広く深く学んでおけば、社会課題を解決する力になり、将来のキャリアの選択肢が広がる」とアドバイス。「受け身ではなく、自分が何のために数学を学ぶのかという目的意識を持って頑張ってください」と受講生たちにエールを送った。■
(日経サイエンス2021年3月号に掲載)
※所属・肩書きは掲載当時
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協力:日経サイエンス 日本経済新聞社