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サイの足跡,スマホで追跡〜日経サイエンス2021年3月号より

先住民にヒントを得た安全な方法

 

ナミビアやジンバブエ,南アフリカ共和国などの国々ではクロサイの角に対する海外からの需要を受けて,数十年前からこの動物が容赦なく殺されてきた。1960年に10万頭と推計されていたクロサイの残存個体数は,1995年までに2500頭を下回った。現在では保護の取り組みによって5600頭前後に回復しているが,依然として絶滅が危惧されており,密猟が最大の脅威となっている。

 

科学者たちはGPS装置をこうした希少動物の首や足首に固定したり角に埋め込んだりして追跡を行い,保護に取り組んできた。入手したデータを利用して個体数を記録し,クロサイが密猟多発地帯に足を踏み入れたら監視することができる。しかし装置が故障することもあるほか,取り付けの際に麻酔薬で眠らせる処置はサイに害を及ぼす心配がある。

 

PeerJ誌に掲載された最近の研究は,サイの足跡をスマートフォンで撮影して記録する新たな追跡技術について述べている。FIT(「足跡による同定技法」を意味する英語の頭字語)と呼ばれるこのシステムは,サイの動きを遠隔地で解析できるソフトウエアを含んでおり,サイを密猟者から守るのに役立つ。

 

かかとのひび割れが“指紋”に

このアイデアはジンバブエにいる地元民の追跡者との共同作業から生まれた。足跡を読むのが非常にうまい地元の追跡者は,足跡の形と,かかとの部分のひび割れが残した痕跡が読み取れる場合にはそれも利用して,個々のクロサイを特定できる。かかとのひび割れは人間の指紋のように個体によって独特なのだ。「彼らがいなければ,そもそも足跡に目を向けようともしなかっただろう」と野生生物保護組織ワイルドトラックの共同創設者で研究の共同リーダーとなったアリバイ(Sky Alibhai)はいう。

 

FITシステムを使うにはまず,スマホでサイの足跡の画像を集め,これを国際利用のできるデータベースにアップロードする。すると解析ソフトウエアが個々の動物を識別し,その年齢と性別を99%の確度で特定できる。特定の地域にいるクロサイの個体数の推計や,その動きの監視も可能だ。(続く)

 

続きは現在発売中の2021年3月号誌面でどうぞ。

 

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