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地震音で海の温度を知る〜日経サイエンス2021年2月号より

広域の温度変化を追跡する新手法

 

音を利用して海水温を測る独創的な方法が実現しそうだ。海は温室効果ガスが捕捉した過剰熱の約90%を吸収しており,気候変動とともに海水温は着実に上昇している。この水温上昇が海面上昇を招き,海洋生物を脅かし,天候のパターンに影響を及ぼしている。

 

だが海水温を追跡するのはなかなか難しい。船による観測は,海のほんの一部分についてのスナップショットしかとらえられない。人工衛星による観測では,深海まで見通すことはできない。海洋熱の最も詳しい姿をとらえているのは「アルゴ計画」のデータだ。20年近く前から世界の海に展開されてきた自律型の観測フロート群で,水深2000mまで潜ることができる。だがフロートは約4000機しかないうえ,もっと深いところのサンプルを得ることもできない。

 

これに対し,海底地震で生じた音の伝播速度を比較することで広域にわたる海洋の温暖化を明らかにしたと,カリフォルニア工科大学と中国科学院の研究チームがScience誌に発表した。音が水中を進む速度は水温が高いほど速くなるので,この速度の違いから温度変化がわかる。「彼らはまったく新しい研究分野を切り開いている」と,プリンストン大学の地球物理学者シモンズ(Frederik Simons)は評する。

 

音を用いて海洋熱を測定する方法そのものは1979年に提案されたが,海に音源を設置するのは費用がかさむうえ,海洋動物に悪影響を与える懸念があった。カリフォルニア工科大学の研究者ウー(Wenbo Wu)はそうした初期の取り組みにヒントを得て,海底地震で放出された低周波の音波を観測することを思いついた。「地震が非常に強力な音波源であることはわかっている。これを使わない手はない」。

 

 

インドネシア近海に適用

ウーらはインドネシアのニアス島の近海を対象に,この方法を試した。この付近ではインド・オーストラリアプレートがスンダプレートの下に沈み込んでいる。チームは2004~2016年に発生したマグニチュード3以上の地震4272件についての音響データを集めた。そして,異なる年に同一地点で起こった地震から生じた音波の伝播速度を比較した。このわずかな差(到達時間にして1秒に満たない)に基づいて計算した結果,ニアス島の近海の海水温が10年間で約0.04℃上昇したことがわかった。アルゴのデータから示唆された0.026℃を上回っている。この差はわずかに思えるかもしれないが,インド洋東部の全体で考えるとかなりの熱だ。(続く)

 

続きは現在発売中の2021年2月号誌面でどうぞ。

 

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