SCOPE & ADVANCE

回転する帆〜日経サイエンス2021年2月号より

100年前の考案が燃料削減のために復活

1926年,ブッカウ号という貨物船が2本の高い煙突のようなものを甲板から突き立てて大西洋を横断した。このそびえ立つ円柱は煙突ではなく,実は風力を利用するためのものだった。ドイツ人技術者フレットナー(Anton Flettner)による驚くべき新発明で,「フレットナー・ローター」と呼ばれる(当時の本誌SCIENTIFIC AMERICANはこれを報じている)。船の進行方向に対して垂直に風が吹いているときに,ローターの前面が風と同じ向きに動くようにモーターでローターを回す。この動きによって,ローター前面の空気の流れがより速く,背面ではより遅くなり,圧力差が生じて船が前に引っ張られる。

Buckau Flettner Rotor Ship LOC 37764u

この回転する帆は正味のエネルギー利得をもたらすものだったが,広く導入される前に世の中は世界恐慌に見舞われ,さらに第二次世界大戦が続いた。化石燃料の利用が好まれ,フレットナー・ローターは電気自動車と同様,100年近く忘れられることになる。

新たなローター船が続々
それが現在,再び注目されている。海運会社がコストと炭素排出の両方を削減するよう新たな圧力を受けるようになったためだ。総トン数1万2000トンの貨物船SCコネクター号が代表例で,全長35mのフレットナー・ローターを追加で取り付けた。橋梁や送電線の下を通る際には,ローターを水平近くまで傾けることができる。ローターを回すには電力が必要だが,メーカーのノースパワーによれば,それでも燃料を最大20%節約可能で,排出を25%削減できる。

スウェーデンに本部を置く非営利研究機関SSPAによると,SCコネクター号のほかにもローター推進補助を搭載する船が増えており,近く世界各地で稼働する見込みだ。造船会社は凧型の帆など,別の風力推進技術も採用しつつある。だがフレットナー・ローターの採用が最も先行しているとSSPAでローターの性能評価チームを率いている造船技師のウェルナー(Sofia Werner)はいう。スイッチ1つでオン・オフを切り替えられるローターを,文字通り一晩で簡単に船に追加設置できる。「実にシンプルな解決策で,わかりやすく安全だ」とウェルナーはいう。「また,非常に目立つのでマーケティングの面でも有利だ」。(続く)

続きは現在発売中の2021年2月号誌面でどうぞ。

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