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超低温のミステリー〜日経サイエンス2021年2月号より

量子世界をのぞき見るレーザー実験

 

人間は大きくて温かいので,量子力学が作用している様子を見ることはまずできない。量子現象を見るために,物理学者はレーザーを使って原子を冷却し,絶対零度をわずか1兆分の1度上回る超低温に冷やす。こうすると原子の動きが十分に遅くなり,量子物理学の法則に従うのを観察できるようになる。

 

だが,複数個の原子からできた分子を冷却するのはさらに難しい。これらの超低温分子はどういうわけか,こっそりと温度を再上昇させる傾向があり,やがて追跡できなくなる。「超低温分子損失」と呼ばれる現象だ。Nature Physics誌にこのほど発表された研究は,この現象がどのように生じるかを明らかにしている。

 

過渡的な「複合体」分子を観察

超低温分子をより詳しく観察して的確に制御できれば,量子コンピューターを組み上げるのに役立つだろうとコロラド大学ボルダー校の物理学者イェ(Jun Ye,この研究には加わっていない)はいう。だが分子の温度上昇がこのプロセスを邪魔する。超低温分子実験の先駆者であるイェは,これらの分子の一部が化学反応の過程で温度上昇を起こす現象を早くから観察していた。物理学というよりも化学の領域に入る現象だ。

 

今回の論文を共著したハーバード大学の研究者リウ(Yu Liu)は,そもそもの研究目的はそうした化学反応を調べることにあったのだが,「その過程で目にしたものが超低温分子損失問題の答えを与えることになった」という。研究チームは分子間の化学反応のスピードを十分に遅らせ,反応の途中で生じる「複合体」という状態における分子の挙動を観察した。反応の最終産物に変わる前の過渡的な中間生成物だ。分子は電気力を介して光と相互作用するので,チームはレーザーを使って分子が飛び去るのを防いだ。

 

室温では複合体の存続時間が短すぎて観察できない。低温にすると少し長続きするが,この長寿命化は代償を伴うことがわかった。超低温の複合体分子に時間的な余裕が生じ,分子を所定位置に保っているレーザー光と相互作用を起こすのだ。この相互作用が分子に熱を与え,一部は超低温を失ってしまう。(続く)

 

続きは現在発売中の2021年2月号誌面でどうぞ。

 

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