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嫌気呼吸で金属化合物合成〜日経サイエンス2021年1月号より

期待の電子材料を嫌気性細菌の力で作り出す

 

一部の細菌が嫌気的に,つまり酸素なしに呼吸できることは100年以上前から知られていたが,有用な物質を作るのにこの特性を利用する研究が始まったのは比較的近年のことだ。最近,電気工学者のチームが二硫化モリブデン(MoS2)という将来有望な2次元物質をそうした嫌気性細菌を使って製造する方法を発見した。MoS2は原子数個分の厚さの薄膜を形成することが可能で,未来の電子材料として期待されている。Biointerphases誌に発表されたこの新発見は,過酷な環境を要する困難な合成過程を回避するのに役立つ可能性がある。

 

「グラフェンは大ブレークを果たした2次元物質のスーパースターだ」と,この研究論文の上席著者となったレンセラー工科大学の電気工学者ソーヤー(Shayla Sawyer)はいう。しかしMoS2は「新たに“特殊技能”をもたらす点で異なる」。グラフェンとMoS2はどちらも強くて柔軟で,未来のセンサーやエネルギー回収システムを作るのに有用だ。だがグラフェンが導電体であるのに対しMoS2は半導体で,光などの外部刺激によって導電性を操作できる。

 

そしてMoS2は「化学的にやや融通が利く」とソーヤーはいう。例えば表面を変えて微生物を捕捉しやすくすることが比較的簡単にできる。だが合成は難しい。加アルバータ大学の材料工学者リー(Zhi Li,この研究には加わっていない)によると,200~500℃の温度と大気圧の10倍という大きな圧力が必要になる場合がある。

 

シェワネラ・オネイデンシスの嫌気呼吸

ソーヤーらはこの問題を回避するため,シェワネラ・オネイデンシス(Shewanella oneidensis)という細菌の嫌気呼吸を利用する新たな合成法を考案した。この細菌は空気呼吸の際,最終的に電子を酸素原子に受け渡す。だが嫌気性環境では,電子を酸素原子ではなく特定の金属化合物へ渡すことができると,論文の筆頭著者となったレンセラー工科大学の生体電気工学者リース(James Dylan Rees)はいう。どの金属化合物を組み合わせて用いるのが最適かを「数回の試行錯誤」を経て見極め,それらをこの菌と一緒に空気を抜いた瓶のなかに入れた。するとシェワネラ菌は呼吸に伴って電子を金属化合物に受け渡し,副産物としてMoS2のナノ粒子を2週間にわたって生み出した。(続く)

 

続きは現在発売中の2021年1月号誌面でどうぞ。

 

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