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皮膚に描き込むセンサー〜日経サイエンス2021年1月号より

安価なウエアラブル健康モニターをペンとインクで皮膚にお絵描き

 

数枚の型紙と3本のペンというと,子供のお絵描き用具に思える。だが,最近の研究者はそうした道具を使って,人間の皮膚に実用的な健康センサーを直接描き込んでいる。

 

様々な健康指標をチェックする装着型のセンサーは以前のかさばる装置から,近年ではタトゥーシールのように皮膚に貼りつける柔軟なパッチに進化した。ただし,そうした既製のセンサーは値が張るほか,皮膚の立体的カーブにぴったりとは追随しない場合があり,装着者の動きによってダメージを受けやすい。これに対しNature Communications誌に発表された皮膚に描く新たな電子システムは,これらの問題をともに解決できるだろう。

 

導電性インクを改造ボールペンに装填

ヒューストン大学の医用生体工学者エルシャド(Faheem Ershad)が率いるチームはまず,人間の皮膚に安全に使用できる導電性インクを開発した。ポリマー溶液に細かな銀の薄片を分散させたものだ。改造ボールペンにこのインクを装填し,テープとフィルムで作った型紙を被験者の皮膚に当てて,型をたどって必要な電気回路を描いた。「図形の描き方を習っている幼稚園児みたいに」とエルシャドはいう。「実に簡単だ」。5分以内にインクが乾き,実際に機能するセンサーができあがる。その後,電力供給とデータ出力用に,標準的な導線をテープで留めた。

 

同チームはこのタイプのインクだけを使って,皮膚の水分量と,心筋および骨格筋の電気的活動を測定した。このセンサーは皮膚に完全に密着して変形するので,装着者が歩き回ってもセンサーが傷むことはなく,データの質も損なわれない。このインクは汗や摩擦に強いが,石鹸水を含んだペーパータオルで拭けば簡単に取り除くことができた。「丈夫なうえ,身体のどの部分にも簡単につけられる」と,ウエアラブル生体電子機器を研究しているテキサス大学オースティン校のキレーエフ(Dmitry Kireev,この研究には加わっていない)はいう。「見事な解決策だ」。

 

エルシャドのチームはより複雑なセンサーを作るため,さらに2種類のインクを追加した。1つは半導体となり,もう1つは誘電体(絶縁体の一種)として機能する。皮膚を模したシリコーンのシート上にそれぞれのインクで異なる層を描き,体温センサーと応力センサーを作り上げた。(続く)

 

続きは現在発売中の2021年1月号誌面でどうぞ。

 

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