離れた時計で時刻合わせ〜日経サイエンス2021年1月号より
情通機構が成功,天体電波を活用
時間や時刻の基準になる超精密時計同士を,数億光年かなたの天体から届く電波で比較することに情報通信研究機構(NICT)が成功した。人工衛星や光ファイバー回線を使わず,遠く離れた時計同士の時刻合わせが可能になる。1秒の長さや国際標準時をより正確に決める技術の基礎になるという。
NICT |
時間の基準となる1秒の長さは,国際ルールによりセシウム原子が放つ電磁波の周波数で定義されている。さらに精密な次世代の標準時計として,複数の原子を極めて微細な格子にとじ込め,原子が放つ光の周波数を測る「光格子時計」が考案され,NICTはストロンチウム原子を使って開発を進めている。NICTはこの時計の精度を調べるため,天体からの信号を使う「超長基線電波干渉法(VLBI)」を利用した。研究チームはイタリア・トリノにあるイタリア国立計量研究所と東京・小金井市のNICTの電波望遠鏡を結んで天体からの電波を観測。イタリア国立計量研究所はイッテルビウムを使った光格子時計の開発を進めており,2つの研究所の2種類の光格子時計の周波数を16桁の精度で精密に比べることに成功した。
VLBIは地球上の複数の電波望遠鏡で天体を観測すると,電波の到着時刻にわずかな差が生じる性質を利用している。これまでは大型アンテナが必要だったが,研究チームは直径2.4mの小型アンテナを使い観測を可能にした。VLBIは銀河系の中心などにあるブラックホールの観測などでも使われている。光格子時計を標準時計に使うには,大陸をまたいで各国の時計を正確に同期させる必要がある。今回の成果で1秒の長さをより精密に定義し直す研究が進むとNICTはみている。■
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