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海藻が謎解きのカギに〜日経サイエンス2020年12月号より

イワシの歴史的増減は湧昇流に関係していた

 

1930年代と1940年代初頭,カリフォルニア沖ではイワシが豊漁だった。モントレー湾を中心に漁獲高が急増し,州の経済繁栄を支えた。だが,1946年に潮目が変わり始め,イワシの漁獲高は23万4000トンから最終的にはわずか2万4000トンに激減し,業界は壊滅的な打撃を受けた。

 

Fitzgerald Marine Reserve Docent

この天国と地獄の交代をもたらした原因について科学者たちは何十年も推測を続けてきたが,仮説を裏づけるデータが欠けていた。だが最近,ついに容疑者が突き止められた。海洋の湧昇サイクルだ。湧昇流は米国西海岸沖の海洋環境の重要な特徴で,深海の栄養豊富な水が栄養の乏しい海面に湧き上がり,表層の食物を補充している。全米の植物標本館から集められた古い海藻の標本が謎解きのカギとなった。

 

「植物はその場にじっとしていて,海の状態に関する情報を記録している」と,6月のProceedings of the Royal Society B誌に掲載された研究論文の上級著者となったモントレーベイ水族館の主任科学者ヴァン・ホウタン(Kile Van Houtan)はいう。「博物館や自然史資料館に保存されている実物の標本を利用できれば,その組織中に埋め込まれた過去の生態系の歴史に関する情報が得られる」。

 

窒素同位体と湧昇流,そしてテングサ

ヴァン・ホウタンらは湧昇がイワシの個体数の変化に影響しているのだろうと考えていたが,モントレー湾で湧昇流の調査が始まったのは1946年になってからで,漁獲高が急変する前の時代のデータはなかった。だが,昔に採取された海藻の標本を使えば,この過去の空白を埋められる可能性があるとヴァン・ホウタンは気づいた。氷床コアに閉じ込められた気泡を調べることで,二酸化炭素の実測が始まる以前の時代の二酸化炭素濃度の推移を再構築できるのと同じだ。

 

研究にあたっては,モントレー湾近くの深海の水が特定の窒素同位体をほかよりも多く含んでいるという事実を利用した。原子中の中性子が通常よりも1個多い窒素15というまれなタイプだ。現代の湧昇データと近年に採集した海藻を調べた結果,海藻の細胞に含まれる窒素15の濃度が,湧昇が盛んな時期の標本ほど高いことを発見した。次に,モントレーで収集されたテングサ属(Gelidium)の紅藻の1878年にさかのぼる歴史的標本70体について同位体レベルを測定した。この結果,湧昇が徐々に強まった後に劇的に弱まったこと,その変化がイワシの個体数の増減と重なっていることが示された。「湧昇活動の低下とイワシの激減はぴったり一致する」とヴァン・ホウタンはいう。(続く)

 

続きは現在発売中の2020年12月号誌面でどうぞ。

 

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