SCOPE & ADVANCE

赤血球の解毒作用をまねる〜日経サイエンス2020年9月号より

非球形の微粒子を生体膜で被覆

 

赤血球の役割は全身に酸素を運ぶだけではない。血流中から有害物質を除去する働きもしている。ジョンズ・ホプキンズ大学の科学者たちは最近,赤血球に似せて作った生体模倣粒子がこの働きを最も効率よく実行する条件をマウスで調べた。非球形に成形した粒子に赤血球に似せた装いを施すと,性能が上がることがわかった。

 

本物の赤血球の膜で合成微粒子を覆うと洗浄スポンジのように働くことが,過去の研究で示されていた。「そうした粒子をたくさん血中に注入すると毒素を吸着する“おとり”となり,健全な細胞への悪影響が抑えられる」とジョンズ・ホプキンズ大学の生体医療工学者グリーン(Jordan Green)はいう。彼が上級著者となった論文は4月のScience Advances誌に掲載。

 

研究チームはまず,安全性が確認ずみで治療用具に広く使われている生分解性ポリマーを用いて球形の微粒子を作った。その後これを引き伸ばし,平らなフリスビーと細長いフットボールの形にした。最後に,これら形の異なる粒子の一部を,マウスの赤血球からはがした膜で包んだ。

 

マウスで効果を比較

同チームは当初,本物の赤血球と同じ円盤形の粒子は表面積が大きくなるので毒素をうまく吸着するだろうと考えていた。どの形が効果的かを調べるため,致死量の黄色ブドウ球菌毒素に曝露したマウスに,それぞれの種類の微粒子を注入した。この結果,膜で覆ったフットボール形の粒子は免疫系によって排除されるまでの時間が最も長く,膜で覆っていない球形粒子に比べ7倍近く長持ちした。また球形粒子を注入されたマウスは,それが膜で覆った粒子であっても,何も治療処置を受けなかったマウスと生存期間にあまり差が生じなかった。しかし,フリスビー形の被覆粒子を注入したマウスの1/3と,フットボール形の被覆粒子を注入したマウスの半数は,1週間後も健康に生きていた。

 

赤血球の形に似ているのはフリスビー形粒子であるにもかかわらず,フットボール形のほうが効果的だったとグリーンは指摘する。「円盤形粒子は本物の赤血球が流れる際に変形する弾性など,形状以外の別の要素を模倣できていないことを物語っている」という。また,フットボール形粒子のほうが血流中で動きやすかったとみられると付け加える。(続く)

 

続きは現在発売中の2020年9月号誌面でどうぞ。

 

 

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