殺菌金属〜日経サイエンス2020年9月号より
銅にレーザーを当てて表面処理し抗菌特性をアップ
銅の表面に付着した細菌は,ものの数時間で死滅する。この身近な金属の殺菌性をさらに高める新手法が登場した。レーザーを当てて小さな凹凸を作るのだ。
細菌は「ますます手ごわく,治療薬に対する抵抗性が強まっている。ウイルスも同じだ」と,4月のAdvanced Materials Interfaces誌に掲載された今回の新プロセスに関する論文の上級著者となったパデュー大学の材料工学者ラヒミ(Rahim Rahimi)はいう。「付着した細菌やウイルスをただちに殺す表面をいかに作るかは関心の的だ。病原体が環境中に拡散するのを阻止できるから」(今回は対象を細菌に絞った)。
銅はそうした表面の有力候補だ。人間は8000年以上前から銅の殺菌性を利用してきた。青銅器時代の人々は飲み水を銅の器に入れて病気を防いでいたと,サウスカロライナ医科大学の微生物学者シュミット(Michael Schmidt,この研究には加わっていない)はいう。銅の殺菌力はこの金属の導電性から生まれる。微生物が金属の表面に触れると,金属は微生物の細胞膜から電子を奪い取る。これをきっかけに化学反応が始まり,最終的に微生物に穴が開いてこれを破壊する。
微細なデコボコで表面積を拡大
ラヒミのチームはこの反応を強めるため,銅の試料にレーザーを数ミリ秒間当て,平らな表面にナノサイズの窪みを作り出して表面積を増やした。「大平原にマンハッタンのビル街を作ったようなものだ」とシュミットはいう。新たにできた垂直構造によって「殺菌に使える“面積”が増えた」。このデコボコした表面は銅に水を強くくっつける効果もあり,水中の細菌を一緒に捕捉する。
研究チームは大腸菌や薬剤耐性黄色ブドウ球菌などいくつかの細菌株を銅の平らな表面とレーザーで処理した表面の両方に載せて比較した。凹凸表面では細菌が接触するとすぐに細胞膜にダメージが生じ始めた。凹凸表面は細菌を全滅させたうえ,それにかかる時間が未処理の表面よりも短くなる例があった。一部の微生物は接触してすぐに死滅し,細菌の種や濃度にもよるが,40分から2時間でコロニーが一掃された。
このレーザー処理は,外科的インプラントなどに使われるチタンなど他の金属にも有効だろうとラヒミはいう。どの金属もある程度の抗菌特性を示すが,チタンは導電性が低いので,銅など導電性の高い金属に比べると殺菌のスピードはずっと遅い。レーザー処理を加えれば,「その金属の抗菌性を増強できるだろう」とラヒミはいう。■
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