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重力子が放つ光〜日経サイエンス2020年9月号より

この未知の粒子を検出する方法になるか

 

どんなものも十分に近い距離で目を凝らして見ると粒状に見えてくる。木々は主にクォークでできている。太陽光線は光子の大群だ。携帯電話は電子の流れで機能している。このように物理学者は物質や光,ほとんどの力の基本をなす素粒子を発見してきた。しかし,重力の粒子としての側面を解明した実験はまだない。

 

ほとんどの物理学者は,重力の素粒子も存在するに違いないが,それら質量ゼロの「重力子(グラビトン)」と既知の素粒子の相互作用が弱すぎて検出できないと考えている。一部の理論家は重力子の存在を確証するため,ブラックホールの合体など強い重力を伴う事象の周囲に群れ集まる重力子を探すことを提案している。3月のPhysical Review Letters誌に掲載された新たな解析は,そうした強烈な大異変によって重力子がまさに姿を現す可能性を示唆している。

 

重力子が光子に変わる可能性

エネルギーが存在するところには重力が存在する。そして光子(光エネルギーを担う質量ゼロの粒子)は,極めてまれではあるが,重力の粒子に自発的に変化する可能性があると,カリフォルニア州立大学の物理学者シングルトン(Douglas Singleton,今回の研究には加わっていない)はいう。また,その逆も起こりうるという。つまり重力子が光子になる可能性がある。

 

今回行われた新たな解析は,重力子が光子に変わる変換反応が従来の研究が示してきたよりも何十億倍も多くなるメカニズムを考察している。この場合,重力子の存在を確認しやすくなるだろう。

 

ブラックホール合体が起こっている近くの空間に関する初期の推計では,検出可能な光を発生するのに「近い数」の重力子が集中すると考えられていたと,今回の論文を執筆したカリフォルニア大学サンタバーバラ校の物理学者ソーヤー(Raymond Sawyer)はいう。

 

質量のない他の素粒子の集団が状態を急に変える可能性がある(「量子破壊」という現象)という過去の研究を知り,ソーヤーは重力子が同じパターンをたどりうるかどうかをコンピューターシミュレーションで調べた。結果は確かにそうなった。重力子が十分に高密度に集まると,ついには一部が光の粒子に一挙に変わる。「雷雲の成長に似て,目に見える兆しはほとんどない」とソーヤーはいう。「実際に稲光が生じて初めてわかる」。(続く)

 

続きは現在発売中の2020年9月号誌面でどうぞ。

 

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