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アリの攻撃性〜日経サイエンス2020年7月号より

敵の匂いを識別できない場合には攻撃しない

 

仲間と敵を正確に識別することは,アリにとって生死を分ける問題だ。侵略者を巣の仲間と間違えると(あるいはその逆も),致命的な大混乱につながりかねない。

 

アリが大勢の仲間の間を手際よく通り抜け,敵とおぼしき個体だけを攻撃することは昔から観察されてきた。新たな研究は,アリの触角にある嗅覚受容体がこの選択的攻撃に重要な役割を果たしていることを確認した。これがないとアリは社会的な区別がつかず,攻撃しなくなる。

 

「アリどうしの攻撃は簡単な規則によっており,自分のコロニーと異なる匂いがすると攻撃するというのがこれまでの共通認識だった」と,今回の研究論文を共著したバンダービルト大学の生物学者ツヴィーベル(Laurence Zwiebel)はいう。だが新研究は話がそれほど単純ではないことを示した。何の匂いもしない場合,あるいは匂いはするが何の匂いか識別できない場合も,アリは攻撃を差し控える。「巣の仲間とは異なる匂いシグナルが存在し,それが正しく解読された場合にのみ,攻撃性が生じる」という。

 

嗅覚受容体の感度を抑えると…

この研究のもとになったのは,アリの外骨格上に存在する一連の匂い物質と,それらを他の匂いから識別する嗅覚受容体を同定した以前の研究だ。今回の研究は,これらの受容体がうまく働かなくなると巣の仲間と外敵の区別がつかなくなることを見いだした。通常なら戦っている敵に対してもおとなしくなる。去る1月のJournal of Experimental Biology誌に報告。

 

研究チームは板の上にプラスチックの仕切りをつけた小さな“闘技場”を作った後,同じコロニーと近隣のコロニーから採集したフロリダオオアリの嗅覚受容体を化学的に操作して,受容体を抑制または過敏にした。それらのアリをこの闘技場に置いて間仕切りを取り外したところ,受容体を抑制されたアリはよそものと対面してもおとなしかった。「匂いがしない場合も紛らわしい匂いがする場合も,攻撃性を引き起こすには不十分であることをはっきりと証明している」とツヴィーベルはいう。(続く)

 

続きは現在発売中の2020年7月号誌面でどうぞ。

 

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