雷には電気で反撃〜日経サイエンス2020年7月号より
飛行機に電荷を注入して被雷を防ぐ
飛行機に乗っていて突然大きな衝撃音が聞こえるか窓の外に閃光が見えたら,それは機体がたったいま雷に打たれたためかもしれない。そうした場合,機体の外板や構造,電子機器が破損していないかどうか確かめるため,操縦士はできるだけ早く飛行機を着陸させることになっている。この規約は安全確保のうえで最も重要だが,出費のかさむ飛行便の遅れや欠航が生じる場合がある。被雷のリスクを減らすにはどうすればよいか? 最新の実験は,直観には反するだろうが,飛行機の外板に電荷を加えるのが最も有効である可能性を示している。
飛行中,プラスやマイナスに帯電したイオンという粒子が航空機の表面,特に機首や垂直尾翼,翼端など先の尖った部分に蓄積することがある。機体にこのように大きな電圧差(分極)が発達した状態で飛行機が大気中の帯電領域に入ると,イオンが機体に沿って流れ,雲とともに電気的な回路を構成して強烈な火花放電を生じる可能性が高まる。つまり稲妻が走る。マサチューセッツ工科大学の航空宇宙工学者ゲラ=ガルシア(Carmen Guerra-Garcia)と大学院生パヴァン(Colin Pavan)が2018年に行ったコンピューターシミュレーションから,イオンの蓄積を回避できると思われる方法が明らかになった。飛行機に負の電荷を加える。
ゲラ=ガルシアとパヴァンは昨年,高さ10mの電界発生装置と飛行機の模型を使って実験し,様々な条件で電荷がどのように蓄積・放散するかを測定した。去る1月のJournal of Geophysical Research: Atmospheres誌に掲載されたデータは,機体に沿ったイオンの流れ(「リーダー」という)が稲妻を引き起こすこと,そして機体に負の電荷を加えるとそうした放電の防止に役立つことを示した。チームは現在,機体表面にイオンを送り込む装置がどのように分極を抑えることができるのかを調べている。
「飛行機を帯電させるなどとんでもないと思うかもしれないが,負電荷を加えて正電荷の蓄積を防げばリーダーの発生を阻止するのに役立つだろう」とノルウェーにあるベルゲン大学の航空宇宙工学者コチキン(Pavlo Kochkin,この研究には加わっていない)はいう。コチキンは自身の研究で,新型航空機の試験飛行の際に発生した被雷を記録している。ゲラ=ガルシアらの研究結果に刺激され,様々なレベルに帯電した空気と水蒸気を生成できる雷雲シミュレーターを作製中だ。電荷注入によって被雷リスクをどれくらい軽減できるか,飛行機の模型を使ってテストできるかもしれない。■
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