推進力はマイクロ波〜日経サイエンス2020年7月号より
燃料搭載なしで飛ぶロケットの基礎実験に成功
筑波大学の嶋村耕平助教らは,マイクロ波を使ってロケットの推進力を生み出す実験に成功し,推進効率を詳細に計測した。地上から無線で送ったマイクロ波で推進することで,搭載する燃料をほぼゼロにして,打ち上げコストを1/100程度に抑える「マイクロ波ロケット」の実現につなげる。
マイクロ波ロケットは固体や液体の燃料を積まずに電磁波のエネルギーで打ち上げる。地上の送電アンテナから電磁波のビームをロケット上部にあるアンテナに照射すると,非常に強いエネルギーが焦点付近に集まる。焦点付近の空気が電離してプラズマが発生し,爆発現象が起こり推進力を生じる。タンクやエンジンは不要となり,ロケットの構造も簡素にできる。
研究グループは,筑波大プラズマ研究センターが所有する核融合炉研究用のマイクロ波源装置「500kW級ジャイロトロン」を活用。直径20cm,長さ約30cmのロケット模型に28GHzのマイクロ波(次世代通信規格「5G」に使われるのと同じ帯域)を電子レンジの約500倍に相当する250 kWの出力で照射し,推進力を得た。
独自開発の回路でロケット内部に達したマイクロ波電力が計測可能になった。実験では90cm離れたアンテナからロケットへの給電効率は14%,マイクロ波発生装置の電源からロケットまでの効率が約6%などと,給電効率を定量的に示すことができた。
マイクロ波ロケットは,地上からのマイクロ波が電離層の影響を受けずに届く高度100 kmまでの加速を想定している。今後は,姿勢や位置が変わるロケットに対して,マイクロ波で効率よく給電する研究などを進める。ドローンをマイクロ波のワイヤレス給電だけで飛翔させる研究も進めており,位置や姿勢を特定して地上から1m先のドローンへマイクロ波を送ることに成功している。嶋村助教は「ロケット自体は技術的にはそれほど難しくはない。送電の技術革新も利用しながら20〜30年後には実用化したい」と話している。■
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