台風の移動,今世紀末に10%遅く〜日経サイエンス2020年4月号より
気象研など予測,大雨や強風の被害拡大も
厳しい温暖化対策を講じなければ,今世紀末には日本が位置する中緯度帯を通過する台風の移動速度は平均で約10%遅くなるとの予測を,気象庁気象研究所などの研究グループがまとめた。台風の影響を受ける時間が長くなると,大雨や強風などの被害が拡大する恐れがあると研究グループは考えており,詳しく分析する方針だ。研究成果は,英科学誌Nature Communicationsに掲載された。
気象研究所などの研究グループは多数の気候シミュレーションの実験結果をとりまとめたデータベースを利用。まず,1951年から2010年までの気候を再現する実験の結果と,実際の観測データから求めた台風の移動速度を比べた。その結果,実験が高い精度で気候を再現できていることを確認できた。
続いて再現実験のモデルを用いて,地球の平均気温が産業革命から21世紀末までに4℃上昇した場合の影響を予測した。東京付近の緯度帯(北緯35~40度)で,台風の平均移動速度が現状の毎時35.68kmから11%低下し,同31.66kmになると予測した。温暖化で日本上空の偏西風が北上し,台風を移動させる風が中緯度帯で弱くなることが,移動速度を低下させる原因とみている。
2019年10月に関東地方などを襲った台風19号の移動速度は毎時37.5kmで,平年値に比べて39%遅かった。最近の研究では温暖化に伴い,台風による降水量が現状より1割程度増すとの予測もある。研究メンバーである気象研の山口宗彦主任研究官は「温暖化が進むと移動速度の減速と降水の強化との相乗効果によって,ある地点の積算降水量が増える可能性がある」と指摘している。■
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