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コウモリの巧みな音響探知戦略〜日経サイエンス2020年2月号より

葉に止まっている虫を捕まえるため,接近する角度を戦略的に選んでいるらしい

 

コウモリは高周波の音響信号を使って夜に,濃い霧のなかでも,空中を飛んでいる昆虫を器用に捕まえることで知られている。だが食虫性のコウモリの40%以上は,葉などの表面に止まった昆虫を捕まえている。コウモリが発した音波は植生にぶつかって雑多な方向に反射されるので,そうしたごちゃまぜのエコーをもとに葉に止まっている昆虫を見つけるのは実質的に不可能なはずだ。そこで,動かずにじっとしている餌を見つけるには視覚や嗅覚,獲物が立てる音などを手がかりにしているのだろうと長い間考えられてきた。

 

ところが最近,スミソニアン熱帯研究所のガイペル(Inga Geipel)と蘭アムステルダム自由大学のサイモン(Ralph Simon)ら生物学者のチームが,一部のコウモリが静かに葉に止まっている昆虫を反響定位(エコーロケーション)だけで検知している仕組みを明らかにした。コミミナガヘラコウモリ(Micronycteris microtis)は特定の軌道に沿って標的に近づくことによって葉を音響ミラーとして使い,不要な反響音が自分に跳ね返ってくるのを避けて,獲物となる昆虫からの信号を際立たせているという。去る8月のCurrent Biology誌に報告。
 

 
「コウモリには獲物からのエコーが強まって聞こえ,葉からの反響は実質的に弱まる」と,加トロント大学の動物生物学者ラトクリフ(John Ratcliffe,この研究には加わっていない)はいう。

 

斜め60°の方向から

研究チームは室内にマイクを並べ,コウモリが出すのと同様の音をソナーから発して,それが葉によってどう反射されるかを調べた。この結果,葉で反射された音波はもとの音源からそれた方向へ向かうことがわかった。だが,斜め60°くらいの角度で入射したパルス音の場合,葉に止まっている昆虫からの反射はソナー音源の方向に戻った。次に,4匹の野生のコウモリが葉に止まったトンボを捕まえる様子を撮影した。「コウモリはいずれも,まさに予想どおりの角度からトンボに接近した」とサイモンは説明する。範囲外の角度では標的の検知がはるかに難しくなった。(続く)

 

続きは現在発売中の2020年2月号誌面でどうぞ。

 

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