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セラミックスを溶接〜日経サイエンス2020年2月号より

レーザーでスポット溶接する新手法

 

セラミックスは硬くて丈夫だ。ガラスよりも傷がつきにくく,ほとんどの金属よりも耐熱性が高い。宇宙や人体に見られる厳しい条件から電子装置を保護できるが,まさにその堅牢性のために加工がしにくい。2つのセラミックスの板を気密を保って接合するには約2000℃まで熱する必要があり,たいていの場合は内部に収められた電子回路が破壊されてしまう。だが最近,レーザーでセラミックスの必要部分だけをスポット加熱する溶接技術が開発された。去る8月のScience誌に報告。

 

レーザーはすでにガラスの溶融に使われている。波長を特別に調整したレーザー光を毎秒約1兆回のパルスにして照射すると,標的部分を溶融できる。ところがセラミックスはガラスと異なり,この光を吸収するのではなく散乱する。「セラミックスというとコーヒーカップや茶碗が思い浮かぶだろう」とこの研究を率いたカリフォルニア大学サンディエゴ校の機械工学・航空宇宙工学者ガライ(Javier E. Garay)はいう。それらのセラミックスは光を散乱する非常に小さな穴があるので不透明なのだと彼は説明する。製造工程を調整して穴のサイズと数を小さくすれば,半透明あるいは透明なセラミックスになる。60年前にセラミックス科学者のコーブル(Robert Coble)が発案した方法だ。

 

研究チームはこうして透明化したセラミックスにガラスに使われているのと同様のレーザー溶接技術を適用し,円筒形の容器を溶接で作ることに成功した。継ぎ目の気密性は十分で,容器内部を真空にひいても空気漏れはほとんどない。宇宙などの過酷な条件での使用に耐えうる水準だ。これらのセラミックスは生体組織と反応しないので,人体に埋め込む電子装置を包み込むのにも使えるだろう。

 

「大きな工学的成果だ」とリーハイ大学の物質科学者ジャイン(Himanshu Jain)は評する。レーザーを使ってセラミックスを溶融した研究は以前にあったものの,セラミックス部品を溶接したのは今回が初めてだと指摘する。「セラミックス溶接が可能であると示す原理実証が最も困難な部分だ。それが達成されたいま,次は詳細に踏み込んで背景の科学を理解し,なぜどのように機能しているのかを明らかにすることだ。これらすべてはこれからだ」。■

 

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