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一緒に飛ぶ理由〜日経サイエンス2019年11月号より

羽ばたきが増して労力がかかってもハトは2羽以上で飛ぶことを選ぶ

 

一団となって飛ぶ鳥の群れの様子は壮観で見る者を圧倒するが,鳥たち自身も仲間のおかげで捕食者から身を守り,飛行の助けを得ている。新たな研究によると,ハトは一緒に飛ぶ際に,たとえ2羽1組でも,単独飛行に比べずっと大きなエネルギーを費やしているのだが,それでも一緒に飛ぶことを選択している。

 

ガンなどの鳥はV字形の隊列を組んで飛行し,隣の仲間が生み出した気流を利用してエネルギーを節約している。これに対しハトのような小さな種は不定形な群れとなって飛ぶので,そうしたメリットは生じない。ハトが密集した群れで飛ぶ際には羽ばたきが速くなり,むしろ大きな労力を使っていることが2011年の研究でわかっていた。

 

この現象を詳しく調べるため,英オックスフォード大学とロンドン大学ロイヤル・ホロウェイの科学者たちはハトが単独で飛んでいるときと2羽1組で飛んでいる場合について,羽ばたきの頻度と飛行経路を追跡した。この結果,2羽で飛んでいるときは単独飛行に比べて羽ばたきの回数が1秒あたり1回多いことがわかった。羽ばたきの頻度としては18%増で,まばらな群れと密集した群れの羽ばたき頻度の違いを調べた2011年の研究結果よりもはるかに大幅な増加となった。それでもほとんどのペアは一緒に行動を続けた。6月のPLOS Biology誌に報告。

 

羽ばたきを速めて安定性向上

論文の著者たちは,ハトは仲間にくっつきながら飛ぶときに,飛行制御と視覚的安定性を高めるために羽ばたきを速めているのだと提唱している。筆頭著者のテイラー(Lucy Taylor)は「飛行速度は実に速い」という。「高速で飛びながらも,何かに衝突してはいけない。これはちょっとした離れ業だ」。ハトに取り付けた追跡装置のデータから,羽ばたき頻度の増加で安定性が高まったことがうかがえる。ただモンタナ大学で鳥の飛行を研究しているトバルスキ(Bret Tobalske)は,確実なことを知るにはハトの頭にカメラを付けるなど,もっと直接的な計測が必要だろうと指摘する。「前回の研究をさらに進めた斬新で重要な研究だと思う」と評する。(続く)

 

続きは現在発売中の2019年11月号誌面でどうぞ。




再録:別冊日経サイエンス244「動物の行動と進化 環境が育んだ驚異」

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