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ひび割れで描いた絵画〜日経サイエンス2019年11月号より

プラスチック表面の微細な亀裂がカラー作品を描き出す

 

人は何千年も前から,色素に基づく絵具やインク,染料を使って美術作品を作ってきた。ところが最近,京都大学の研究チームが表面の微細な形の違いから色が生じる小さなプラスチック製の絵画を作り出した。

 

色素はある波長の光を吸収しそれ以外を反射することで特定の色を生み出す化学物質だ。だが,なかにはモルフォ蝶のきらめく青色や一部のハチドリの素晴らしい羽根など,表面の微細構造の大きさと間隔に基づいて発色する例がある。これらの微細構造が異なる波長の光と相互作用して色を生む。

 


Andrew Gibbons Kyoto University

細かな亀裂を狙った場所に

多くのプラスチックはストレスを加えると非常に細かなひび割れができる。「クレーズ」と呼ばれるこうした亀裂は通常,材料の全体にわたって不規則に生じる。しかし一部のプラスチックは,あらかじめ光線を照射してその部分を選択的に弱くすることができ,ストレスを加えるとそこにクレーズが生じる。「亀裂が入る場所を実際に制御できるのだ」と,6月のNature誌に発表した論文を共著した京都大学の物質科学者ギボンズ(Andrew Gibbons)はいう。これらの亀裂が大きさと配置に応じて特定の色を生み出す微細構造として働く。

 

ギボンズらはプラスチックの薄片に強力なLED(発光ダイオード)の光を当てた後に酢酸に浸し,あらかじめ光線で弱くしておいた場所にクレーズを作り出した。これらの亀裂は当初,プラスチックに照射した光と同じ波長の光を反射する。

 

だがプラスチックを酸に浸す時間を長くするか高温にさらすと,亀裂が拡張してより長い波長を反射するようにできる。また光を照射した領域それぞれの大きさやプラスチックの厚さも,亀裂がどこまで拡張するかに影響する。研究チームはこの手法を試すため,古典絵画やクイーンのアルバムのカバーを模写したミニチュアを作った(最小は幅が0.25mm)。

 

「画期的な工夫だ」と米国立標準技術研究所の高分子材料科学者ソールズ(Christopher Soles)は評する。「物質にできるクレーズはふつう非常に有害な代物だが,ここでは役に立っている」という。(続く)

 

続きは現在発売中の2019年11月号誌面でどうぞ。

 

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